【木野鳥乎のHow to Draw】リアルと幻想を交錯させる水彩コラージュの魔法


「やめられない人だけがイラストレーターを続ければいいと思う」イラストレーターの木野鳥乎さんはそう語った。時代の最先端にある広告や雑誌での仕事の醍醐味を知る一方、長く人々に息づく作品を残したいと2002年からKINOTORIKO名義で絵本の制作を開始。さまざまな技法を編み出しながらオリジナリティ溢れる作品を制作している。過去のいろいろな作品から影響をうけて人生の糧にしてきたので、自分もまた、死んだ後も残り、誰かに影響を与える一冊をつくりたいと微笑む。そんな木野さんの技法の一つ「水彩コラージュ」を紹介する。

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今回紹介するのは、イラストレーションファイルWebギャラリーTOP画像の制作プロセス。アナログとデジタルの長所を兼ね備えた技法だ。作品のコンセプトは「多幸感」。桃源郷を思わせる空間にするために色彩の豊かさを意識、鳥や自然、ふくよかで瑞々しい果物などのモチーフを配置し「おいしそうで楽しそうで幸せそう」な印象と質感を狙った。

 

 1.デッサン、ラフを制作する

必要なモチーフをデッサンする(左)。動物など実際に存在するものは資料を元にし、描き慣れない動物などの場合はさまざまな方向から一度は練習しておく。今回の主役は木野さん自身「小さな頃から大好きで描き慣れている鳥」なので完成は早い。

ラフ(右)の制作では、まず作品の縦横比を確認(今回はギャラリーTOPのため横長)。その後、筆記用具でモチーフの配置や画面の雰囲気を決めていく。最初は大まかに置き、構成を何度か繰り返して完成させる。今回は1時間程度でまとめた。

筆記用具は、ステッドラーの芯ホルダー+ホルダー芯。芯は柔らかいが擦れにくい2B~3Bを使用しているが、3Bについてはステッドラー製がもう手に入らないため、三菱uniのホルダー芯を代用している。「鉛筆のように削りカスを散らかす恐れもなく、持つ位置が変わらないホルダータイプが好き」とのこと。

 

 2.水彩パーツを制作する

水彩パーツを制作する。実制作の期間は約1日。日本画用の顔料絵具で水彩的に描くのがポイントだ。顔料絵具は顔料が紙の目に乗りやすく、グラデーションの調整や乾燥後の予測がしやすいという。パーツは描き続ける中で描きたいモチーフがどんどん生まれてくるため、何時間か継続して行う。

1.赤と黄の絵具を多めの水で溶き、ホワイトワトソン紙にごく薄い調子でシルエットを描く。

2.書道用の太筆を細く尖らせ、葉先から輪郭をつくっていく。ある程度の太さの線まではこの筆一本で表現している。

3.水彩用の細筆に変え、赤系を多めに混ぜながら少しずつ色味を濃くし、植物の肉厚感を出す。角やエッジの表現は、この素材制作の段階から大切にしている。

4.PCの導入でバリエーションの作成ややり直しができるようにはなったが、この工程は一発勝負。今も残る「緊張」の側面だ。

5.植物や果物、切り抜き用のモチーフなどを描く。必要であれば絵具を水筆で伸ばし、にじみの誘導も行う。にじみは方向が重要なので、紙の方向を変えて作業することも多い。

6.今回の制作プロセスには出てこないが、水彩用細筆を使ってフリーハンドの線画を描く場合もある。

TOOLS
木野さん愛用の道具類。
どれも、これまでのイラストレーター活動の中で試行錯誤をして辿り着いたものだ。

1.ウエマツで購入した丹波絵具工業の日本画用顔料絵具。チューブから絞ったままの色を、緑青系、赤黄系、黒紫系と近い系統で分類してパレットにまとめている。固まっても水分を加えてしばらくおけば何度でも使えるので便利。色の調合は、主に丸皿の上で行なう。

2.水バケツ代わりの瓶と筆立て。中央は補給用水ボトルで、コンタクトレンズ用洗浄液用ボトルを活用している。

3.絵具の染み込み率や伸び率を熟知したホワイトワトソン紙。使う前に紙を濡らして一晩置き、平らに乾かしてから使う。一手間加えることで、絵具を塗った時に紙に含まれた空気が気泡として現れる現象を防ぐ。

4.フランス・ラファエルの水彩用細筆。輪郭や細かな部分もとても細く描けるので便利だ。

5.筆は日本画用の太筆4本、4の水彩用細筆2〜3本をこまめに取り替えながら描く。穂先が割れるようになったら新しい物に変えるが、基本的に線画からベタ塗り、擦り加工用と用途を変更していく。

 

3.Macintosh上に水彩パーツを取り込み、鳥のモチーフをつくる

水彩パーツをスキャンしてデータ化し、Photoshop上でコラージュしていく。まずはメインとなる鳥のモチーフを作成する。透明水彩の時代は色面の透明感を損なわずに色を重ねるのは難しい作業だったが、Photoshopであれば難なくできる。長く緊張感の中で制作してきた木野さんに、デジタルツールは制作の自由度とバリエーションを広げ、制作の楽しさを高めてくれたという。

1.ラフから鳥のみ残し、周辺を消してきれいにした後でマスクをつくる。作業はつねに作品のメイン部分から行う。

2.鳥のマスクレイヤーに背景用のテクスチャーを読み込む。

3.マスクレイヤーの下にテクスチャーを置き、シミュレーションを行う。位置や角度の変更、回転などを加えて鳥らしい柄を見つける。位置が決まったら色の調子やトーンを調整して好みの色を見つける。

4.テクスチャーの位置や色が決まった状態

5.この段階で他の水彩パーツのスキャニングとゴミ取りもしておく。

 

4.鳥の立体感を表現する水彩パーツを描く

鳥を具体的かつ立体的に見せるため、羽根の水彩パーツをそれぞれ描く。トレース用に、3で制作した鳥モチーフの色ベタレイヤーと透明度を抑えた線画レイヤーを重ねて印刷しておく。


1.ライトボックス上で印刷した鳥モチーフにマスキングテープでホワイトワトソン紙を重ね、羽根の上後部、下部、尾羽根をトレースしながら決めた色のトーンで細部を描き込む。くちばし、目などもこの段階で描く。

2.完成した状態。スキャンするので一枚にまとめて描いている。

3.スキャニングした羽根の細部と鳥モチーフ、それ以外のメインになる枝や蔓モチーフなど。

 

5.Photoshop上でコラージュする

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Photoshop上でパーツをコラージュしていく。構図を決め込まなくても成り行きで楽しめる点や色の微調整が自由にできる点、作業中にも発見が多い点が自由度を広げている。ただ、配置が楽なため「素材をたくさん使いたくなりがち」なので、イラストレーションの機動性を考え、素材を盛りすぎないよう意識している(今回は通常より多めに盛っている)。


1.鳥と枝、蔓など構成の中心になるパーツを配置する。先に鳥のくちばし、目を乗せた鳥に羽根の細部パーツを乗せる。上後部は透明度60%、周辺の色をすべて飛ばした状態。

2.羽根の下前部はパスできれいに切り抜き、白を残した状態で影も少し加えてなじませる。尾羽根はこの段階ではまだ見せ方を決めていない。

3.背景に薄水色のテクスチャーを配置する。普段からいろいろな背景がストックしてあるので、その作品に合った物を使う。もちろん新規で作成する場合もある。

4.周辺の果物や花、植物を配置する。イチジク風果物やサボテン風植物など、大きな物から左右のバランスを見て加える。小さな素材でも手前に出すかどうかで印象が大きく変わるため、位置や前後関係は注意深く考える。

5.細かな素材をさらに配置する。仕上げに霧のような白い楕円を入れ周囲をぼかし、涼しげな湿気感や幻想感を加えて画面をまとめる。

 

●完成作品

最後に文字(名前)をレイアウトして、イラストレーションファイルWebのギャラリーTOP画像が完成した。

Bird in Paradise

Bird in Paradise

 

●取材を終えて

アトリエに「かわいい」「楽しい」が飛び交う制作だった。作品コンセプトを「多幸感」と語り、愛読書の図鑑に笑顔を見せた木野さん。その一方で「オリジナルでも自分に発注する形にします。目的があってこそのイラストレーションなので」ときっぱり語るのが印象的だった。

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水彩は初期から扱ってきた技法。顔料絵具との出会いは早かったが、自身が求める透明感の表現と技法の間には、色の重ねにくさなどの障壁が長くあった。だが、2000年代のMacintosh導入がそれらを一気に解消、手描き水彩パーツをデジタルコラージュする形へと導いたという。このデジタルとアナログの長所を兼ね備えた技法には、緊張と緩和、偶然と熟考など多くの対が隠される。例えば、モチーフの柄選びでは心ゆくまでバリエーションを試し「思いもよらない色と出会えて楽しい」と偶然を楽しむが、コラージュでは瞬きも忘れるほど熟考する。恐らく、この緩急が創造性を刺激し独自の表現を導いているのだろう。

実は、技法の根底にあるのは2002年制作の処女絵本『なないろえほん』の考え方。今やライフワークとなった絵本制作は、技法実験に欠かせない存在ともなった。「広告の仕事は楽しいですが、多くの人に読み継がれる絵本も残したい」と語り、イラストレーター業界の厳しい状況も認識しつつ「描くことをやめられない人だけが続ければいい」と笑う。やりたいことは尽きない。自らの言葉を体現する木野さんの活動が今後も楽しみだ。

【取材:木村早苗 撮影:松尾 潤 文責:イラストレーションファイルWeb】


■イラストレーター紹介
木野鳥乎

木野鳥乎(きのとりこ)
青山学院大学文学部英米文学科卒業。イラストレーションと絵本制作。
2003、04年ボローニャ国際絵本原画展入選。 09年フランスの出版社より発売された「Tendre est La Mort」でLibby-Lit賞受賞。
電子書籍も公開中。水彩、線画、コラージュ等、様々な技法で作品を創作している。
http://www.kinotori.com/
http://i.fileweb.jp/kinotoriko