イラストレーターとデザイナーの分業化|イラストレーションについて話そう 伊野孝行×南伸坊:WEB対談


 
─────イラストレーションについて話そう 伊野孝行×南伸坊:WEB対談

第2回② イラストレーターとデザイナーの分業化

「イラストレーション」とは一体どんな「絵」なのか、
「イラスト」と「イラストレーション」、呼び方の違いに意味はあるのか。
有名なあの描き手はどんな人なのか、なぜあの絵を描いたのか、
この表現はどうやって生まれて来たのか……。

イラストレーター界きっての論客(?)伊野孝行さんと南伸坊さんが
ユル〜く、熱く語り合う、イラストレーションをめぐるよもやま話。

時代が進むとイラストレーターとデザイナーの分業化・専業化されていく。
仕事は効率化されたが、反面その弊害も少なくない。

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アイコン第2回_2

■イラストレーターが専業化していった時代

南伸坊(以下、伸坊):1960年代に、イラストレーターの絵が雑誌の表紙になるってなかったんですよ。『話の特集』以外だと『平凡パンチ』の大橋歩さん*16が、当時まだ学生で、いきなりデビューした。あの発想もすごいんだよね、まったく未知のものを持って来るっていう。アートディレクター、誰だっけ。

伊野孝行(以下、伊野):堀内誠一さん*17。大橋さんとか峰岸達さん*18、和田誠さんより少し後で、すでにイラストレーター専業の人がたくさん出て来ますよね。でもやっぱり絵にデザインの感覚が入っている。

伸坊:うん、デザイン感覚のあるイラストレーションていう実体は、もちろんずっと前からあったんですよ。でもそれは広告の分野で、だった。それが一般の雑誌に挿絵画家じゃないイラストレーターの絵が、だんだん載り出して来る。そうして「イラストレーション」ってクレジットが入るようになっていった。

伊野:そうなんですね。日本語のイラストレーションの最初は広告だったと知った時はちょっと意外でした。広告出身じゃない人では、小林泰彦さん*19や穂積和夫さん*20たちがエディトリアルで先に活躍してたって、峰岸さんから聞いたことあります。
 

大橋歩『平凡パンチ』創刊号表紙(マガジンハウス/1964年) 画像提供:マガジンハウス

大橋歩『平凡パンチ』創刊号表紙(マガジンハウス/1964年)
画像提供:マガジンハウス

伸坊:和田さんたちがデザイナーとして出発した頃は、クライアントからああしろこうしろとか言われず、仕事できてた。クライアントや代理店のビジネスマンたちはデザインのことを知らないから口を挟まない。これで正解なんだけど、そうならない。だんだん何か言わなきゃ仕事してないみたいって思っちゃうのかな、どんどん口を出すようになって来るんです。

伊野:結局、広告デザイナーと兼業だったイラストレーターの人たちが、エディトリアルの方へ来たのは、広告でうるさいことを言われるようになって「やってらんねー!」って嫌気がさしたからですか。

伸坊:だと思いますよ。「文字を大きくしろ」「このへんに赤い色とか入れてくれ」とかさ(笑)。第1回で小村雪岱の表紙の話しましたけど、餅は餅屋ってのがいい仕事の仕方なんだけどね。黙って任すのが仕事だって、それが本当に分かってる人のやり方です。

伊野:じゃぁ、今広告業界にいる人は相当辛抱強い人なんですね(笑)。


*16 大橋歩(1940-) 多摩美術大学在学中にヴァンヂャケットにデザイン画を持ち込んだのがきっかけで1964年『メンズクラブ』でイラストレーターデビュー、同年創刊された平凡パンチ』(平凡出版=現マガジンハウス)の表紙を8年にわたり担当。

*17 堀内誠一(1932-87) 伊勢丹宣伝部を経て、1955年アド・センターを設立。57年より平凡出版(現マガジンハウス)の雑誌アートディレクションを担当、『an an』『POPEYE』『BRUTUS』『Olive』など同社雑誌のロゴを手がける。絵本作家として『くろうまブランキー』『ぐるんぱのようちえん』などのロングセラーを残した。

*18 峰岸達(1944-) 青山学院中退、セツ・モードセミナー卒業後、イラストレーターとして活動開始。昭和レトロな世界観で数多くの装画や挿絵を手がける。MJイラストレーションズを主宰し、後進イラストレーターの育成・指導にあたっている。

*19 小林泰彦(1935−) 1959年から兄で編集者・小説家の小林信彦が編集長を務めた『ヒッチコックマガジン』のアートディレクションと挿絵を担当。同誌は挿絵を「イラストレーション」と表記した先駆け。60〜70年代は男性ファッション誌などにイラストルポやファッション関連のイラストを提供。アウトドアや自転車に関する著書も多い。

*20 穂積和夫 建築設計事務所を経てイラストレーターになる。広告やメンズファッション雑誌等で活躍、カーメカニックやファッション、アウトドア、映画、建築物などモチーフは幅広い。セツ・モードセミナーが開校すると、その1期生として入学。

■イラストレーターとデザイナーの専業化には弊害もある

伊野:今はエディトリアルでもうるさいことを言われますからね。

伸坊:今度はデザイナーがネックになって来てんのかもね。デザイナーがレイアウトで「自己主張」するからね。絵も生きて、全体でいいモノ作れるんならいいんだけどさ。

伊野:今は本が売れないから、出版社の営業の人の意見も強いのかもしれないですけど、それは別にして、デザイナーがいてイラストレーターがいて本を作ると、息を合わせるのが難しい。伸坊さんや和田さんとか安西水丸さんみたいに、デザインを出来る人が絵を描いて自分でデザインもやると、何もかもがピタッと綺麗に合う感じがするんですよ。

昔と違って今は絵を描かないデザイナーがほとんどだから、感覚的に共有できる部分が小さくなっているのかも。例えば和物の絵に、ひげ文字みたいな書体をつけられると、イメージがダブっちゃってちょっとうっとうしいなぁ〜って(笑)。

伸坊:デザイナーはデザイナーで「自分はこうしたい」ってのがあるからね。「こういう絵が来たらこうする」ってのがいいデザイナーだと思うんだけど。

若いイラストレーターの方も、とりあえず自分の構図で描いても、使われる時は部分だったりトリミングされたりするものだと思ってる。「素材」として描いてるカンジなのかな。自分ではデザイン出来ないと思ってるわけでしょ?

伊野:デザイナーが絵を描かなくなったのは問題だ! って主張してる割には、僕も自分でデザインはやってないんですけどね(苦笑)。

まぁ、でも文庫本の場合なんかは、各社でフォーマットが決まってるし、下3分の1はオビが入るから、絵のメインがオビに隠れないように計算して構図を作るし、なおかつタイトルを大きく入れたいって言われるから、そのスペースも空けて……となると、だいぶこっちでレイアウトの仕事もしちゃってるわけですもんね。空いたところにデザイナーが文字を入れる。それでギャラはいくらといくらなんだ? っていうのが長年の疑問なんですが(笑)。

伸坊:また変わって来ると思いますよ。誘導するしかないよね、イラストレーターの方から。

■デザインが入ると絵がつまらなくなる?

伸坊:デザインと絵ってさ、例えば、昔ベトナム旅行した時に面白い素人の看板を見て、こういうのはもうどんどんなくなるんだろうなと思った。すごくイイ感じなんだけど。デザイナーが入って来るみたいなシステムになると、こういう面白さはなくなるんだ。どんどんつまんなくなるんですよ(笑)。デザインていうか、資本の論理とか入るとさぁ、「不必要なことはしない」ってなるから。

伊野:ほう、資本の論理。それはモダンデザインの影響ですか?

伸坊:それもある。デザイナーだけじゃなく「経済」かな。例えば、マッチのデザインてさ、マッチがエライ時は面白い。マッチが世間的に取るに足らないものになって来ると、ぜんぜんつまんなくなっちゃう。

昔、赤瀬川原平さんが「台所用のマッチが面白い」って言い出して、みんなでコレクションしてたんだけど、台所用マッチは様式があって、色数が限られてたり制約が多い中で新しい図柄を作らなきゃいけない。で、職人が苦し紛れにいろんなことをやった結果、シュルレアリスムみたいなのが出て来ちゃった。

伊野:判じ絵*21のような感じですか。

伸坊:判じ絵じゃなく、新しいバージョンにするために、例えば猫が糸巻きにじゃれている図柄があるとするじゃない。その猫を単純に虎に変えちゃうと、なんかすごくヘンな面白いものになる。ずさんなアイデアがナンセンスになる。いろいろなんだかよく分かんない図柄があるんだけど、職人もひょっとして面白がってたかもしれない。

広告マッチも時々ヘ〜ンなのとか、面白い絵とかあるよね。なんか気に入った絵、気軽にパクったりしてる面白さもある。

伊野:ちゃんと本式に取り入れているわけじゃなくて、それっぽいもの描いてみるか、みたいな感じ。「ちっちゃいマッチだし」って。

伸坊:そうそう、あの大きさだから出来た面白さかもしれない。そういうのあるよね。
 

南伸坊画 広告マッチラベル

南伸坊画 広告マッチラベル

伊野:そういえば、和田誠さんって原寸主義なんですよね。展覧会で昔の仕事の印刷物と原画が並べてあって、ちゃんと(印刷物に)サイズを合わせて描いてて、それだけで僕はすげぇ技術力だなって思います。

伸坊:今でも原寸ですよ、和田さん。原寸で描いてるから出て来る味ってのもあるよね。あの連続模様みたいなのも原寸で、しかも同じパターンをちゃんと全部描くんだよ。個展でそういうのが並んでるのを見て、灘本唯人さんが「同じなんだから1コだけ描いたのを繰り返す(コピー)でいいんじゃないの?」って言っててさぁ(笑)。でもきっと、コピペじゃない描き方が持ってる力ってあるよね。

(第2回③につづく)


*21 判じ絵 絵を見て、それに込められた言葉や意味を当てるなぞなぞ遊び。江戸時代に流行した。

 


<プロフィール>

伊野孝行 Takayuki Ino
伊野自画像8
1971年三重県津市生まれ。東洋大学卒業。セツ・モードセミナー研究科卒業。第44回講談社出版文化賞、第53回 高橋五山賞。著書に『ゴッホ』『こっけい以外に人間の美しさはない』『画家の肖像』がある。Eテレのアニメ「オトナの一休さん」の絵を担当。http://www.inocchi.net/


南伸坊 Shinbo Minami
南自画像21947年東京生まれ。イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。著書に『のんき図画』(青林工藝舎)、『装丁/南伸坊』(フレーベル館)、『本人の人々』(マガジンハウス)、『笑う茶碗』『狸の夫婦』(筑摩書房)など。
亜紀書房WEBマガジン「あき地」(http://www.akishobo.com/akichi/)にて「私のイラストレーション史」連載中。
 
 
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