第4回② リアルに見せるためのテクニックと巧妙なウソ|イラストレーションについて話そう 伊野孝行×南伸坊:WEB対談


 
─────イラストレーションについて話そう 伊野孝行×南伸坊:WEB対談

第4回② リアルに見せるためのテクニックと巧妙なウソ


「イラストレーション」とは一体どんな「絵」なのか。
有名なあの描き手はどんな人なのか、なぜあの絵を描いたのか、
この表現はどうやって生まれて来たのか……。

イラストレーター界きっての論客(?)伊野孝行さんと南伸坊さんが
イラストレーションの現在過去未来と、そこに隣接するアートやデザイン、
コミックなどについてユル〜く、熱く語り合う、連続対談。

今回は写実的に描くために写真をトレースすることの是非から、
さらに「キメどころ」「ヌキどころ」というちょっと高度な話まで。


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■抽象画への反動がリアリズムにつながった?

南伸坊(以下、伸坊):スーパーリアリズム*13の人たちは「写真のまんまじゃないんだ」っていうのを必ず言いますよね。リチャード・エステス*14とかも、ものすごく写真みたいな絵なんだけど、「写真そのままじゃない」って本人も言うし、解説する人もそう言う。確かに、写真のまんまじゃ「絵にならない」部分はあると思うけど。

伊野孝行(以下、伊野):何が違うんでしょうね。伸坊さんがリチャード・エステスっていう人をけっこう面白いと思ったのは、どんなところでした?

伸坊:新鮮だった。あの頃はそういう絵がなかったんだよね。スーパーリアリズムのものすごい初期の人ですね。

伊野:リアルが主題にならなくなった時代に、現代美術の中でリアリズムをやったってことですね。

伸坊:まさにそう、現代美術ってルネッサンス以来の平面上の仮想空間てのをものすごく嫌ったんだよ。そんなに嫌わなくてもいいじゃないって(笑)。絵が進化してるって思ってたんですね。印象派が出て、どんどん新しいアイデア出して変わっていって、最後に抽象画になっていったと。ホントは抽象画なんて面白くないって思ってるわけだよ、普通の人は。「これが一番新しい」って言われるから、お金持ちが最初は無理して買うんだけど。

伊野:ハハハ。現代美術コレクターって、無理して買ってるんですかね?

伸坊:ブランド物買わされてるみたいなさ、「今はそんな古臭いの買っちゃダメだ、これ買うのが新しい」って言われて買って、パーティの日に部屋に飾って「これが最新の流行」って自慢して、後で売っちゃえばいいわけだから。

伊野:札束数億円分を飾るのはさすがに気がひけるけど、要はそういうことで、値段が高くなきゃダメなんだ。3万円の絵とか飾ってあってもまるで意味がないですもんね。

伸坊:現代美術って、そのへんでもう破綻してるよね。だって、買う人が「面白い」「好きだ」と思ってるわけじゃないのが、ものすごい値段になっちゃってるんだから。まぁ、経済としては成立してるんだけどさ。

伊野:描いてる側も、美術の文脈を踏まえてやってないとダメなんですよね。面白いから、好きだから、って描いてるだけでは相手にしてもらえない。

伸坊:文脈は踏まえてなきゃダメで、そのゲームのルールに沿った絵が認められる。流行ってのもあるよね。絵の商売で暮らしてる人は、「これはウケる」「これは新しい」って、そこを分かるのがつまり有能ってことだから。

伊野:コレクターの家は、みんなを呼ぶ部屋には抽象画が飾ってあって、自分の部屋にはリアルな分かりやすい絵を飾ってたりして。

伸坊:それはあり得るんじゃない? ポップアート*15が出て来たってのは、そもそもがそれなんですよ。現代美術があまりにも抽象に行っちゃってつまんない。コカ・コーラのビンが描いてあったら、それはものすごくよく分かる(笑)。

伊野:あ、コーラだ! ってね。
 

*13 スーパーリアリズム 超写実表現。フォトリアリズム、ハイパーリアリズムという呼び方もある。写真を基にモチーフを正確かつ克明に描写するもので、1960年代後半〜70年代にアメリカで流行した。現代アートとしてのスーパーリアリズムが目指したのは、写真が切り取った情景や光・質感の忠実な再現という没個性的な表現である。これに対し、日本のスーパーリアル・イラストレーションは、誇張された質感表現や、写真に撮れない非現実世界など「写真を超えた」表現がメインとなっている。

*14 リチャード・エステス(1932-) アメリカのスーパーリアリズムを代表する画家。街角の風景や高層ビルなど都市の日常風景を、エアブラシは使わず油彩で克明に表現する。1990年に日本で展示を行った際は、日本の都市を描いた作品も出品した。

*15 ポップアート POPとはpopularに由来する言葉。1950年代末期〜60年代にイギリスとアメリカを中心に起こった芸術運動。当時美術界で支配的だった抽象表現主義のカウンターとして発生し、大量生産・消費社会のイメージを主題に、既製の商品や雑誌、写真、広告物などを素材やモチーフとして、絵画や版画、コラージュなど、さまざまな表現手段を用いた作品が制作された。

 

■トレースで描くと気持ちが入らない

伸坊:絵描きってさ、光の感じを表現したい人、質感を出したい人ってあるよね。写真を基にものすごくリアルな絵を描いてる人は、どっかでトレースしてるわけでしょ。トレースしなきゃ正確になんかならないんだから。形はそういう風にして正確に取ることが出来たとして、その後に明暗の調子を入れていって、質感を出したいのか、光の感じを出したいのかっていうのがあると思う。

伊野:僕なんか、どっちからも逃げたいですけどね(笑)。でもリアルな絵の人はそここそ一番やる気の出るところでしょうね。伸坊さんは写真を基にして描くっていうのはたまにはやります?

伸坊:たまにっていうより、だいたいそうですよ。似顔絵だったり。

伊野:そりゃ似顔絵はそうですけどー!(笑)。それはそのまま写すような、っていう意味の。

伸坊:最近、ちょっとそういう傾向もある。

伊野:赤瀬川さんが亡くなられた時の『アックス』*16の追悼特集で、表紙に伸坊さんが描いたリアルな赤瀬川さんの肖像があって、その絵がすごくよくて好きだったんです。気持ちの込め方として、リアリズムの描き方もいいなと伸坊さんのその絵を見て思ったんですよ。追悼する気持ちが、描き方を選ばせたのかなあ、と思いました。

伸坊:あれ、全然正確じゃないよ。写真を横に置いて、見て、ものすごく原始的に描いたんですよ。トレースでもいいんだけど、自分の気持ちが入らないような気がして。赤瀬川さんって、カメラなんかを描く時に写真のトレースって全くやんなかったんだ。トレースでいいんじゃないって、オレは思うんだけど。

カメラのレンズがさ、こう側面から描くと、まあ楕円になるってのはリクツでも分かるんだけど、どういうわけかリクツ通りに描いても円の面が変に傾くんだよ。レンダリング*17って技法のノウハウで、この楕円の長軸をちょっと斜めにするってのがあって、オレはデザインの勉強をしてるからそのコツを教えたんだよ。ところが、頑固にそうしないんだ。やっぱり自分の目と手で描きたいんだね。

そんなのもあって、赤瀬川さんの絵なんだから歪んでもいいから雰囲気が出るようにしようと思って。表情は頭の中にあるから、赤瀬川さんの笑った感じのニュアンスが出したいとか、そういうのはあったね。最初はなかなかうまくいかなくて、それでも感じが出て来たなって時は、やっぱりうれしかったね。

『アックス』VOL.102  赤瀬川原平追悼特別企画(青林工藝舎/2014年)表紙

『アックス』VOL.102 赤瀬川原平追悼特別企画(青林工藝舎/2014年)表紙原画


 
伊野:この対談連載で僕が描いた小村雪岱が鈴木春信をハンティングしてる絵は、実は二人の描いた人物をトレースして、無理やり鉄砲持たせたりして合成して描いたんですよ。自分で一から雪岱調をやろうとしたんだけど、全然ダメで。それと岩田専太郎なんかの美人画も実はトレースしました。白状します(笑)。それは悪口言いすぎて、図版が借りにくいから、なるべく正確な方がいいかなって思ってやったんですけど、うーん、やっぱりトレースだと……ってところがありますね。うまく描けるのは当たり前なんだけど、そんなに楽しくないですね、絵を描くことが。その代わり苦しくもないですが。

伸坊:トレースに罪悪感っていうかインチキ感あるのって、ヨーロッパの人でもあるのかな。最終的には手で描くんだよね。この「手で描く」とこになんかあるんだよな、確かに。例えば雑誌でさ、「ほとんど写真のような」リアルなイラストレーションがあるのと、写真そのものがあるのとじゃ、そのページの見え方が違うんだよね。写真を絵に置き換えるだけで、写真の重ったるさとか、なんかなくなるんだよ。

「これは完全に写真そのまんまだろ」ってイラストレーションがあるんですよ。「なんでもない風景」の写真を一所懸命絵にして、写真そのままの絵なんだけど「写真そのまんま」よりページがもつ。何かあるはずだよね。

伊野:なんか楽しいですよね。人の手のぬくもりでしょうか(笑)。写真を基にして絵を描く場合、その写真が自分で撮ったものなのか、他の人が撮ったものなのかで、随分違って来ると僕は思うんです。描く側のスタート地点っていうか、他人の写真を基にしちゃうってことは、他人が見た視点で描くわけだから。アングルを決めること自体に発見があるし。

この前、山崎英介*18さんの個展を見てスゲェなと思ったんですけど、最近の山崎さんは「+」だけで大きな絵を描いてるんですね。

写真的なリアリズムが基本としてはあるんだけど、「+」の集積で絵が出来てるからアミ点的な印刷の錯覚の面白さもあるし、紙の切れ端なんかに描いたクチャッとした落書きを拡大して描いたりもする。そのドローイングの気ままな線を構成しているのは、これまた「+」の集まりで。このやり方で描いた抽象画もカッコイイの。

写真の面白さや、印刷の面白さ、ドローイングの面白さ、それらをコラージュした面白さ、いくつもの面白さが重なってるんです。

伸坊:へえー、面白いねえ。アイデアがあるよね。

伊野:山崎英介さんはもともとものすごく絵のうまい人で、トレースなんかしなくても、実物そっくりに描けるんですけど、ニューペインティング*19やヘタうま的な要素もあるし、本当、絵にはいろんなものが入れられるんだなあ、って感激しましたね。しかも、英介さんは今80歳! ですよ。

編集部:その展示は見ましたけど、近づくと本当に「+」だけで描いていて、離れると写真のようにリアルに見えますよね。

伊野:逆に英介さんの絵を印刷物にして、縮小しちゃうともったいないんですよね。原画で見るに限る。

山崎英介「ブルックリン魂」 展覧会図録『EISUKE YAMAZAKI AT SEZON ART GALLERY』より

山崎英介「ブルックリン魂」 展覧会図録『EISUKE YAMAZAKI AT SEZON ART GALLERY』より

山崎英介「popeye the sailor man」部分拡大 伊野孝行さんが所蔵する作品。

山崎英介「popeye the sailor man」部分拡大 伊野孝行さんが所蔵する作品。


 

*16 『アックス』 青林工藝舎が刊行するオルタナティブ系の漫画雑誌。青林堂が刊行していた『ガロ』の元編集部員により、1998年創刊。『ガロ』は事実上の廃刊状態となり、実質的にその後継雑誌となっている。メジャー商業漫画誌では掲載困難な、ユニークな才能の発掘や作品の紹介に力を入れている。

*17 レンダリング 「描画」「表現」を意味する言葉で、デザイン・建築用語ではデザイナーや設計者の意図や製品の完成イメージなどを図面やイラストに描き起こす作業を指す。

*18 山崎英介(1937-) サントリー宣伝部、サン・アドでデザイナーとして活動後、フリーのイラストレーターに。1977年〜83年ニューヨークで生活し、ニューペインティングなどのアートムーブメントに参加。帰国後はイラストレーションや絵本などの仕事と並行してさまざまなアート作品を発表。

*19 ニューペインティング 1970年代後半〜80年代にかけて起こった、荒々しい筆致や原色を主体とした大胆な色使いを特徴とする絵画表現の動向。近年は「新表現主義(ネオ・エクスプレッショニズム)」と呼ばれることも多い。70年代に流行したストイックな「コンセプチュアル・アート」や「ミニマル・アート」の反動とも言われる。

 

■リアルに見せるテクニックを覚えるのは楽しい

伸坊:あのさあ、以前、伊野君の紹介記事っていうか、原稿書いた時に抱き合わせでホメた画家、名前なんてったっけ。

伊野:マレーネ・デュマス*20とロン・ミュエック*21ですね。『群像』だったかの「私のベスト3」っていうコーナーで、伸坊さんに無名な私を紹介していただいたやつ。ちなみに1位は私です(笑)。

伸坊:あー、デュマスか。荒木経惟*22さんとコラボとかした。デッサンはきっとうまくて流して描いてる感じだけど、写真の調子の感じがすごく出てる。うまいなあって。絵具のにじみ具合とかボカし具合とか面白いし、形はどんどん歪んでも写真に写った空気感みたいなのがちゃんと描けてるんだよね。

伊野:写真に写ってる空気感みたいなのは、一つの魅力としてありますよね。

伸坊:あれは天性のものってのがあるかもしれない。明暗や光の感じを捉えるセンスだね。

伊野:光が当たっているところは一番明るく見えているんだけど、そのすぐ隣って実はけっこう色が濃くて。頭で考えると、光が当たって白いところからだんだんグラデーションで濃くなっていくように思うけど、実は明るいところのすぐ隣が濃い。そういう風に描くと、光ってる感じが出しやすい。効果が出ると楽しくなる。

伸坊:そういう発見の積み重ねが技術なのかな。

伊野:デュマスはどうなんですかね。いや、最近そういう光り具合に気付いて、なんかふと思いついたんでしゃべってしまいました(笑)。

発見を積み重ねた技術ってことでいうと、小松崎茂*23さんとか、生賴範義*24さんとか、あと石原豪人*25の絵もバカバカしくて好きなんですけど、どの程度が写真に基づいてるのか、どの程度がテクニックを使って空想で描いてるのか気になりますね。僕もたまにリアルに描く時に、写真資料がない部分は、急にそこだけへたになっちゃう(笑)。ごまかし方のテクニックがないんですよね。

僕なんかはSFが好きでもおかしくない世代なんですけど、あまりそうではなかったんで、生賴さんとか詳しくなくて(苦笑)。伸坊さんは生賴さんとかって、どのように見てました?

伸坊:いや、オレも全然知らない。

伊野:「スター・ウォーズ」とか、生賴さんの絵とは知らずに見てたわけですけど。生賴さんが人気があるのは、筆のストロークが残っているところが気持ちいいからですかね。

編集部:生賴さんの原画を近くで見ると筆のタッチやストロークが意外なほど粗くて、ちょっと離れると急に精密に見えて来るんですよ。印刷物を前提に、縮小されることを計算して描かれている。

伊野:そう、縮小されると違いますもんね。(タッチが粗いのは)筆跡が気持ちいいというのもあるだろうし、時間の節約という側面もあっただろうし。

伸坊:やっぱりうまかったんだろうね。タッチやストロークを残すってのも流行ってたけどね。

生賴範義「戦艦大和」 『生賴範義軍艦図録』(玄光社/2017年)収録 オリジナルは1986年『丸スペシャル』(潮書房光人社)用に制作。

生賴範義「戦艦大和」 『生賴範義軍艦図録』(玄光社/2017年)収録
オリジナルは1986年『丸スペシャル』(潮書房光人社)用に制作。


 
編集部: 「ボブの絵画教室」*26という海外の番組で、アメリカの画家が短時間ですごくリアルな絵を描いていて、それはびっくりしました。絵だけ見ていいと思うかは別ですけど、過程を見ると、エッこれがこんな風に見えてくるの? すごいなって。

伊野:ああ、お土産で売ってるような絵の。

伸坊:銭湯のペンキ絵みたいな絵ですか?

伊野:お土産で売ってるこういう絵って、風景画が多くないですか? きっと描きやすいんですよね。例えば山があって、ここは崖になっててって時に、筆に絵具つけて、グイッと描いた時にできるタッチがそのまま崖の形になったりして。水墨画で描く竹なんかもそうかもしれないけど。これはやりすぎると下品になちゃうんですよねー。ボブの絵もまさにそう(笑)。

伸坊:服のシワとかさ、よく見て描けばそっくりに描けるのかなと思うけど、よく見ないじゃないですか。昔は布に石膏をつけて固めちゃうんだってね、そうすればもう動かないからそれで練習する。何度か描いてると、こういう時はこんなシワが出来るっていう特徴が頭に入るのかな。その特徴を口で説明しろって言われると困るだろうけど、こう描けばいいってのは分かる。そういう「慣れ」で出来る部分はあるんじゃないかな。浮世絵とかだと筆の抑揚でシワの感じを表現する。あれはもうリズムで描いてて、見てる方はそんなとこいちいち見てないから、ちゃんとシワが描けてるように見える。

伊野:ちゃんと描けてるように見えるのは、シワ自体、体の形が作り出す「流れ」だから、リズム良くババッて描いた線の方が、真面目にシワを見ながら描いた線より、流れの感じが出せるということもある。

 

*20 マレーネ・デュマス(1953-) 南アフリカ出身の女性画家で、現在はオランダを拠点に活動する。メデイアに流通する写真や映像を用いて、独自の生命感溢れる肖像画を描く。人種や性による差別や偏見などの社会問題を扱った作品も多い。

*21 ロン・ミュエック(1958-) ハイパーリアリズムの彫刻家。1980年代はテレビや映画用の人形や模型制作に携わり、90年代より自身の創作に専念。人間の身体の微細な部分までを克明に再現したシリコン製の人物像で知られ、中には数メートルの巨大な作品もある。

*22 荒木経惟(1940-) アラーキーの愛称で知られる写真家。電通に宣伝カメラマンとして勤務後、1972年フリーとなる。モチーフはヌードから著名人のポートレート、日常風景まで幅広く、私家版を含め多数の写真集を発表。中でも妻・陽子(90年没)や愛猫など身近な対象を撮った「私写真」が高い評価を受けている。

*23 小松崎茂(1915-2001) 挿絵画家としてデビュー、戦前は科学雑誌『機械化』などに軍艦などの兵器や空想科学の挿絵を描き、人気を得る。戦後は少年誌に「地球SOS」「大平原児」などを連載、絵物語ブームの牽引者として山川惣治と人気を二分した。その後は漫画誌で戦記物やSF物の挿絵、プラモデルの箱絵などで活躍した。最晩年まで創作を続け、1990年代以降に再評価が進んだ。

*24 生賴範義(1935-2015) 油絵風の写実タッチで書籍カバー、雑誌の表紙や挿絵、映画ポスターなど幅広く手がけた。1970年以降は宮崎に制作拠点を移して膨大な数の仕事をこなしたが、中でも「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」や平成版「ゴジラ」シリーズのポスターで世界的に知られる。2014年の宮崎での展覧会以降その再評価が進み、2018年には東京で大規模な回顧展が開催される。

*25 石原豪人(1923-98) 映画の看板絵や紙芝居からスタート、挿絵画家となり江戸川乱歩などの小説を手がける一方、少年少女雑誌で怪獣や妖怪・怪奇物、SFの挿絵、スターの肖像画などを数多く手がけ、学習雑誌の図版も描いた。「林月光」の名前でエロ雑誌の挿絵を描き、晩年はサブカルチャー方面で活躍した。没後20年を迎え、「怪奇」「エロス」の表現者として再び脚光を浴びつつある。

*26 「ボブの絵画教室」(The Joy of Painting) 1983〜95年アメリカの公共放送PBSで製作された30分番組。アフロヘアの画家ボブ・ロス(1942-95)が油絵具と「ウェット・オン・ウェット」技法(乾かないうちに絵具を重ねる)で短時間で絵を描いていく。日本では1990年代にNHK-BSで放送、CSチャンネルでも放送された。世界各国で放送・DVD化され、YouTubeチャンネル「Bob Ross」でも観ることが出来る。

 

■いかに巧妙に手を抜くか、ウソをつくか

伊野:肖像画でも、顔は細かく描くけど首から下はわざとザックリ「流して」描くみたいなのがありますね。

伸坊:ちゃんと描いてあるように見えるっていうか、想像できるわけじゃない? うまい人はそのキメどころが分かってる。ダリなんかキメどころだけでやってるとこあるよね。初期の「記憶の固執」って時計が溶けてる有名な絵あるでしょ、あれ現物が24cm×33cmなんですよ。ものすごく小さい。でも、現代美術はどんどんサイズがデカくなるじゃない。あの密度で、デッカイの大変なんだよ。ものすごく絵が「薄い」んだよね。全部びっちり描くわけにはいかないから。売れちゃってるし時間ないし、弟子使って描いてるわけでもないから、ものすごく省力化してるの。

編集部:先ほどの生賴さんの絵も絵具がかなり薄くて、離れたり縮小するとちゃんと細密に見えて来る、無駄のない描き方なんです。空山基*27さんが「昔の自分はへただった」と話していて、それは隅々まで全部細かく描いていて、手のヌキどころを分かってなかったという意味で。空山さんの作品も塗りは薄いですから。

伸坊:そもそも見る方が、全部みっちり見ているわけじゃない。見る方がどこを見ているか、ですよね。隅から隅までずーとサーチしてるわけじゃないから、「ここ描いとけば」って分かってる人は省力化できる。

伊野:光の当て方も、このライティングならより立体的に見えるとか。

伸坊:写真だって、全然立体感出てない写真ってあるもんね。

デッサンの先生ってさ、「大づかみに捉えろ」「立体として捉えろ」とか言うんだ。「裏側が描けてない」とか言うんだよな。ホントはさぁ、絵って3次元のものを2次元に移すわけだから、手品のタネみたいなもんなんだよね。普通の人が無意識に見てるものを意識して見るのが画家だから、例えば反射光ですね。見えてるとこが面が後ろに回り込んでいく直前のところをよく見ると、暗い面の中に明るいとこがあるのが分かる。平面の色のマダラを立体的であるかのように見せるためにどうすればいいか、光ってるものを光ってるように見せるにはどうすればいいか。つまりは隣り合った色を「よく見る」です。光ってるものには光ってるものの特徴がある。その特徴を捉えれば、空山さんのロボットみたいにちゃんと矛盾なく光ってるように描ける。

伊野:そっか、空山さんはあんな光ってるものを描けるなんてすごいなって思ってたんですけど、光ってるものの方がある意味、描きやすくもあるわけだ。

伸坊:見る側の「弱み」を握るんですね。シロートは意識的に見てないから、「自分が分かってる」ことが分からない。空山さんが描く金属のロボットって、いちいち模型作って写真撮って描いてるわけじゃないでしょ。ずっと描いて来た中で、反射して光るものの調子の特徴が分かってる。だからそういう風に描ける。実際に模型を作って写真を撮ったら、空山さんの絵そのままにはなってないですよ。人間の目が「これは光ってる」って認識して、そう理解してる。そのトリック、コツがうまく掴める人はそれが表現できる。

編集部:いかに巧妙にウソをつくか、という話がリアル表現にはありますよね。

伸坊:まぁ絵は2次元のものを3次元に見せるってトリックだからね。

(第4回③につづく)

『空山基作品集 SEXY ROBOT “GIGANTES”』(玄光社/2015年)表紙 表紙のイラストレーションは1980年代に広告用に描かれたもので、のちにエアロスミスのCDジャケットにも反転した上で使用された。

『空山基作品集 SEXY ROBOT “GIGANTES”』(玄光社/2015年)表紙
表紙のイラストレーションは1980年代に広告用に描かれたもので、のちにエアロスミスのCDジャケットにも反転した上で使用された。


 

*27 空山基(1947-) 旭通信社(現ADK)を経て、1971年よりフリーのイラストレーターとして活動。女性のエロスに金属のメタリックな質感、メカニカルな要素を組み合わせた「セクシーロボット」で高い評価を得る。ソニーが開発した初代「AIBO」のデザインも手がけた。海外にも多くのファンを持ち、国内外で展覧会や作品集の刊行が行われている。


<プロフィール>

伊野孝行 Takayuki Ino
04-ino-icon1971年三重県津市生まれ。東洋大学卒業。セツ・モードセミナー研究科卒業。第44回講談社出版文化賞、第53回 高橋五山賞。著書に『ゴッホ』『こっけい以外に人間の美しさはない』『画家の肖像』がある。Eテレのアニメ「オトナの一休さん」の絵を担当。http://www.inocchi.net/


南伸坊 Shinbo Minami
04-minami-icon1947年東京生まれ。イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。著書に『のんき図画』(青林工藝舎)、『装丁/南伸坊』(フレーベル館)、『本人の人々』(マガジンハウス)、『笑う茶碗』『狸の夫婦』(筑摩書房)など。
亜紀書房WEBマガジン「あき地」(http://www.akishobo.com/akichi/)にて「私のイラストレーション史」連載中。
 
 
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