第9回前編 風刺とパロディ③ 風刺やパロディに及び腰になるのはなぜ?|イラストレーションについて話そう 伊野孝行×南伸坊:WEB対談


─────イラストレーションについて話そう 伊野孝行×南伸坊:WEB対談

第9回前編 風刺とパロディ③ 風刺やパロディに及び腰になるのはなぜ?


イラストレーター界きっての論客(?)伊野孝行さんと南伸坊さんが
イラストレーションの現在・過去・未来と、そこに隣接するアートやデザイン、
漫画などについてユル〜く、熱く語り合う、連続対談。

最近の風刺画やパロディはどうもつまらない。そう感じてしまうのは
引用元や風刺の対象への過剰な配慮や萎縮(忖度?)があるのではないか。
あるいは「パクリ」と言われてしまうことへの恐れなのか。

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第9回アイコン

■パロディに対して嫌悪感があった

伊野孝行(以下、伊野):実は、僕の「画家の肖像」*1というのは、描きながら「なんかパロディみたいな絵だなあ」って思ってたんですよ。これ大丈夫かな? って。パロディっていうのは完全に前の時代の、つまらないものの代名詞くらいに思ってた。でも、別にパロディ自体が悪いわけじゃないよな、って思い直して。

9-1_画家の肖像表紙

伊野孝行 『画家の肖像』(ハモニカブックス/2012)表紙

 

南伸坊(以下、伸坊):そうそう、オレ、あの解説を書いた時、なるべくパロディって言葉を使わないようにしたんだよ。「パロディに見えるけど違う」みたいに書いたのは、みんながパロディって聞いて想起するもののつまらなさとは全然違う、見れば分かるだろってつもりだったと思う。

伊野:僕も「パロディみたいだけど違うものなんだ」って自分に言い聞かせながら描いてました(笑)。なんでパロディがつまらないんだろうって考えたんですけど、「パロディの面白さ」ってすぐ分かっちゃう。ゴッホの作業靴を描いた絵のパロディとして、ゴッホのタッチでハイヒールを描くとか。どこが面白いか、頭ですぐに解けちゃう。簡単に因数分解できるような面白さって全然面白くないというか……。面白いものを見た時って頭の中が「なんだこれは!?」状態になるはずで、しばらく経って冷静になって、何が面白かったか分析し始めると、その興奮状態は薄れていく。そうなるまでの時間をいかに長引かせるか。簡単に言葉で分析できないものをどう入れていくか。結局つまんないパロディって、全部言葉で説明できちゃうんですよね。

編集:ちょっと考えさせるところが必要なのでしょうか。

伊野:考えさせるというか、逆に理屈のようなものはなくてもいいと思います。言葉に出来ないニュアンスを狙った方がいいですね。こうやって喋ってて、なんかさっきの返事の仕方が妙に面白かったとか、えも言われぬ間が可笑しいとか、絵でも間がいい絵と間が悪い絵があるじゃないですか。絵の場合は「ヌケ」*2っていうのかな。

伸坊:そうだね。つまり、AIで出来るような「笑い」ってありますよね、「こうすれば笑う」って。ダジャレだったら、似た言葉をぜ〜んぶ当たっていけばいいわけだからね。似てるから面白いってのはもともとあるわけですから。なぜ、似てると面白いのかから考えていくと、また違う発想になっていくと思うけど。「似てると面白いんだ」って似てるものばかり探す、ダジャレがオヤジギャグって言われるようになっちゃったのは、それだと思うんだ。つまんないダジャレを言うからなんだよね。

伊野:ダジャレもまた不当評価されていますよね。

編集:言うタイミングもありますよね。

伸坊:言い方も(笑)。

伊野:あと、言う人。ダジャレは「総合芸術」ですよ。
 

*1 画家の肖像 古今東西の画家の肖像を「さもありなん」という設定で描いた伊野孝行さんの作品シリーズ。2010年と12年に展覧会を開催、2回目の展示に合わせて同名の作品集がハモニカブックスより刊行された。南伸坊さんが解説文を寄せている。


*2 ヌケ イラストレーションの褒め言葉として「ヌケがいい」「ヌケがある」という表現がしばしば用いられるが、具体的にどういうことなのか説明はきわめて困難。「風通しがよい」というニュアンスが近いが、単に隙間や余白が多ければ「ヌケがよい」わけではなく、細かく描き込まれた絵でもそう評価されることがある。

 

■パロディは繰り返し見て楽しむものではない

伸坊:落語は全く同じネタをやっても、噺家によって全然違うからね。分かっていても面白い。それはスジが面白いってこととは別だからね。たくさん落語を聞いてる人は、微妙なところが分かるようになる。

編集:音楽は気に入れば何回も繰り返し聴くし、本、漫画や小説だって面白ければ何度か読み返しませんか?

伊野:音楽は耳に慣れるってとこもあるけど、本や漫画を何度も読むのはそのつど「発見」があるからなんですよね。風刺やパロディって1回分かっちゃえば、面白さを発見したと思ってもう見ないのかもしれない。そういう面白さしかその絵には用意されてなかったってことでしょうね。

編集:風刺画は時事的なテーマも多いし、繰り返し見るものではなくて一期一会的なものでしょうね。

伊野:絵の力があれば何回も見れると思いますけどね。去年「パロディ 二重の声」というパロディだけでまとめた世にも珍しい展覧会が東京ステーションギャラリーであったんですけど、全体的に面白くないパロディ作品がいっぱいな展覧会でしたね。

伸坊:面白くなかったね(笑)。

伊野:別に面白いパロディを集めた展覧会ではないから、それはそれでいいっちゃいいんだけども……。

伸坊:あれは、この時代にそういうことがあったという「歴史」としてやりたかったのかもしれないね。それにしても、もっと面白いもの集めりゃいいじゃないかって思うけどね(笑)。

伊野:そう、せっかくだから。長谷邦夫*3さんの「ねじ式」*4とか「巨人の星」*5のパロディ漫画があって、たぶん当時読んだらそれなりに面白かったと思うんだけど、さっき言った1回見たパロディは2回目見ても面白くないみたいな感じがすでにありましたね、初めて読んだけど。で、隣に赤瀬川原平さんが描いた「ねじ式」のパロディ「おざ式」があって、そっちはめっちゃくちゃ面白い。何回読んでも面白いと思いますね。面白いパロディとつまらないパロディの見比べになった(笑)。
 

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赤瀬川原平「おざ式」(『ガロ』1973年7月号掲載)
「ねじ式」のパロディで、タイトルは赤瀬川自身のマンガデビュー作「お座敷」(1970)から取っている。依頼者として当時『ガロ』編集部にいた南伸坊さんが登場する。


 
伸坊:長谷さんはフジオプロにいて、赤塚不二夫*6さんの漫画のアイデアのブレーンだった人だけど、自分の名前でやるとパロディがあんましなんだよねえ。

伊野:あー、そういう方だったんですか。迂闊につまんない、つまんないを連発してしまった(笑)。
 

*3 長谷邦夫(1937-) 貸本漫画家などを経て1965年赤塚不二夫のフジオ・プロ設立に参加。作画のほか、企画ブレーンとして赤塚の主要作品に関わる。パロディマンガや伝記マンガの制作、詩作、作詞なども行った。独立後はマンガに関する著書を執筆。

*4 ねじ式 つげ義春の代表作。『ガロ』1968年6月増刊号「つげ義春特集」に掲載された。メメクラゲに左腕を刺された主人公が医者を探して放浪する物語。シュールな世界観が話題となり、長谷邦夫、赤瀬川原平、江口寿史(1956-)など、多くの漫画家がパロディを描いている。


*5 巨人の星 梶原一騎(1936-87)原作、川崎のぼる(1941-)作画によるマンガ作品。『少年マガジン』に1967年〜71年連載され、テレビアニメ化もされた。主人公・星飛雄馬が父・一徹の厳しい指導のもと憧れの巨人軍入団を目指し、入団後は魔球「大リーグボール」を武器にライバルと戦う。スポ根マンガの元祖とされる一方、独特のセリフ回しやキャラクターの個性、魔球にまつわるエピソードなど「ツッコミどころ」も多く、しばしばパロディの対象になっている。


*6 赤塚不二夫(1935-2008) ギャグ漫画の王様と呼ばれた漫画家。1956年デビュー、同年にトキワ荘に入居。62年「おそ松くん」「ひみつのアッコちゃん」のヒットで一躍人気漫画家となる。67年より『少年マガジン』で連載された「天才バカボン」では数々の実験的な表現を行い、その地位を不動のものにした。80年代以降はスランプや闘病でほとんどマンガを描いていないが、代表作が繰り返しアニメ化されている。

 

■風刺・パロディに及び腰になっている原因は何か

編集:今、風刺画に対して及び腰になってる部分があるじゃないですか。

伸坊:それがよく分からないんだけどね。スポンサーが嫌がるとか、画廊が「これはやってもらっちゃ困る」って言うとかってこと?

伊野:リクルートのギャラリーでTISが毎年展覧会やらせてもらってたんだけど、何年か前から会社の方針かなんかが変わって「肖像権*7があるから本人の許可を取らずに似顔絵を描かれては困る」って急に言い出して。えー!? ですよね。広告の仕事じゃないんですよ、ただの展覧会なのに。で、それじゃこっちは困るって、お互いいろいろ意見をやり取りする中で、「公人*8の場合、肖像権が制限されることもあるようです」とかそんなことも言ったりしてた。でも、政治家の風刺画とか描かれたら一番イヤでしょう(笑)。

伸坊:黙ってやっちゃえばいいんだけどね。そんなものにわざわざ「オレに断ってない」って本人が文句言いに来るわけないんだから。やっぱりいつもの仕事のあり方、「クライアントあってのイラストレーター」って考え方が染み付いちゃってるんだなって思いましたね。誰かクライアントがいて展示やってるわけじゃないんだから、そんなのいいよって。

伊野:肖像権って言い出したら、イラストレーターなんかやってられないですけどね。雑誌で似顔絵描く時にいちいち本人に許可なんか取るわけないんだし、そんなことやってたらジャーナリズムにならないじゃん。そもそも法律が芸術よりも前にあること自体がおかしい。芸術の方が先に進んでるものなんですから。こういう時は都合よく自分のやってることを「芸術」と言わせてもらいますよ(笑)。

伸坊:全く同感ですね。

伊野:著作権*9とかもね、これは前からそうだけどうるさいですよね。オレはパクリOKですから、むしろパクらなきゃってぐらい。シェイクスピア*10だって、物語を全部自分で考えたんじゃなくて、それまでいろんなところにあった話を集めて来て、それで話を作った。歌舞伎だって同じ。それはものを作る時に当たり前のことだと思うんですけど。

編集:引用や再編を1種のパクリと捉えれば、シェイクスピアは「パクリ上等」で数多くの傑作を残したと。

伊野:そう。シェイクスピアという人がいたおかげで分散していたものがまとまってより面白くなったというか。パクったってさらに面白くなってるんだったらいいと思う。まあ、不当に金儲けをするためのパクリはダメですけど。法律ももともとはそういうのを防ぐために作られただけで、悪いことしようってわけじゃないのに、先回りしてこれは法律に照らし合わせてどうのこうの言ってるのなんか本当にバカみたい。

江戸時代はパクリOKないい時代だったと思ってたんですけど、鍬形蕙斎*11は葛飾北斎のことを「あいつパクリやがって」と言ってたらしいですけどね。

伸坊:なに、その鍬形蕙斎って?

伊野:「北斎漫画」は鍬形蕙斎の略画の本から着想を得ているとか?

伸坊:ああ、あの略画の。なるほど、あっちが先なのか。

伊野:僕は鍬形蕙斎の絵の方が好き。

http://www.metmuseum.org/art/collection/search/57554

鍬形蕙斎 『略画式』(1795)より「相撲図」 メトロポリタン美術館所蔵

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葛飾北斎 『北斎漫画』(19世紀)より「相撲図」

 

*7 肖像権 個人の肖像にまつわる人格的・財産的権利。本人の許可なくみだりに容姿を撮影されたり公表されない権利が人格的権利。著名人の肖像には財産的価値があり、無断で商業目的に使用してはならないとするのが財産的権利で、パブリシティー権とも呼ばれる。日本の法律には肖像権は明記されていないが、民事上では著作権法などに準じた考え方で人格権や財産権の侵害が認められた判決がある。


*8 公人 狭義には政治家や公務員など、国や自治体などの公務に従事する人を指す。報道上では、芸能人やスポーツ選手などの著名人、報道対象となっている事件やニュースの渦中にある人物は「みなし公人」として公人に準じた扱いを受けている。


*9 著作権 自分の考えや感情を表現した創作物を「著作物」と呼び、日本では、有名無名を問わずその作者(著作者)に自然発生的に付与される権利(無方式主義)と規定されている。著作権は著作人格権と財産権とに大別され、それぞれ著作権法により保護されている。


*10 ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616) ルネッサンス期に活躍した英国の劇作家・詩人。俳優として活動する傍ら脚本を書き始め、絶大な人気を得た。4大悲劇と呼ばれた「ハムレット」「マクベス」「オセロ」「リア王」や、「ロミオとジュリエット」「ヴェニスの商人」などの傑作を残し、詩作でも高い評価を得ている。


*11 鍬形蕙斎(1764-1824) 江戸中期の絵師、浮世絵師。当初は北尾政美と名乗り、花鳥画や武者絵のほか黄表紙の挿絵も描いた。31歳で津山藩の御用絵師となり、鍬形蕙斎と名乗り狩野派に転じる。1795年に略画の絵手本『略画式』を描いた。鳥瞰図による江戸名所図も多数残し、葛飾北斎に強い影響を与えた。

 

■フランスの風刺画テロ事件が落とす影

伊野:前にもちょっと話が出ましたけど、フランスで風刺新聞の編集部がテロに遭ったシャルリー・エブド事件がありましたね。

編集:日本の風刺やパロディが極端に大人しくなった背景には、あの事件の影響もあるかもしれないですね。

伊野:『シャルリー・エブド』に載ってた風刺漫画って、言葉が分からないせいもあるかもしれませんが、面白いと思わなかったですね、絵だけ見ても。まあ、むこうは風刺大国ですから、日本のような考えや感覚で見るのは違ってるかもしれないし、風刺を楽しむ層があって、その層に向けたものかもしれない。

編集:昔のオノレ・ドーミエなんか、国王批判で投獄されたりしてるんですよね。

伊野:時代が時代なら、断頭台行きですよね。シャルリー・エブド事件があった時に、なぜか『女性自身』の記者から「今回のフランスの新聞社のテロについてどう思われているかお話を聞きたい」と電話がかかってきて。たぶん「イラスト」「風刺画」で検索したらヒットしたのかもしれない。「オレもついに風刺画家になったか」って思いましたけど(笑)。

伸坊:あはははは。

伊野:僕、シャルリー・エブド事件についてはすごく言いたいことがあるわけじゃないっていうか、殺すのは酷いと思ったけど、普段から風刺について考えてないですからね。でもけっこう衝撃的な事件だったんで、ちょうど日下潤一*12さんやイラストレーターの友人と事件や風刺画のことでメールし合ってたんです。そこに書いてあった他人の意見をあたかも自分の意見のように『女性自身』の記者に話したんですが(笑)、詳しくは何喋ったか忘れたけど、結局ページの都合で掲載されなくて、僕の風刺画家デビューはなくなりました。そもそもむこうが求めてないこと言ったからボツになったのかもしれません。

伸坊:おそらく、「表現行為に対してテロはおかしい」って、それを絵を描いている立場から言って欲しかったんだろうね。でも、誰でも言えるようなこと言わされるのはイヤだよね。

(第9回後編につづく)
 

*12 日下潤一(1949-) 装丁家、アートディレクター。B GRAPHIX主宰。当初は大阪で『プレイガイドジャーナル』のアートディレクションなどを担当。1984年に活動拠点を東京に移し、書籍や絵本、コミックの装丁、『芸術新潮』(1990〜2014)『小説現代』など雑誌のアートディレクションを手がける。


取材・構成:本吉康成


<プロフィール>

伊野孝行 Takayuki Ino第9回アイコン_伊野1971年三重県津市生まれ。東洋大学卒業。セツ・モードセミナー研究科卒業。第44回講談社出版文化賞、第53回 高橋五山賞。著書に『ゴッホ』『こっけい以外に人間の美しさはない』『画家の肖像』がある。Eテレのアニメ「オトナの一休さん」の絵を担当。http://www.inocchi.net/


南伸坊 Shinbo Minami第9回アイコン_伸坊1947年東京生まれ。イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。著書に『のんき図画』(青林工藝舎)、『装丁/南伸坊』(フレーベル館)、『本人の人々』(マガジンハウス)、『笑う茶碗』『狸の夫婦』(筑摩書房)など。
亜紀書房WEBマガジン「あき地」(http://www.akishobo.com/akichi/)にて「私のイラストレーション史」連載中。

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