第12回前編 メディアと結びつく、流行を捉える|イラストレーションについて話そう 伊野孝行×南伸坊:WEB対談


─────イラストレーションについて話そう 伊野孝行×南伸坊:WEB対談

第12回前編 メディアと結びつく、流行を捉える


イラストレーター界きっての論客(?)伊野孝行さんと南伸坊さんが
イラストレーションの現在・過去・未来と、そこに隣接するアートやデザイン、
漫画などについてユル〜く、熱く語り合う、連続対談。

メディアと結びついて流行に乗ったものは「流行っている」魅力を纏う。
しかし、昨今はメディアの状況も流行のありようも変わりつつある。

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第12回アイコン_伊野_伸坊

■社会と結びついた絵とは

南伸坊(以下、伸坊):イラストレーターは「芸」がないと注文来ないけど、現代美術って「理屈」言えたら成立しちゃうんじゃないの?

伊野孝行(以下、伊野):ああ、芸人は芸がないとダメだけど、芸術家は芸がなくても成り立つかもしれませんね。客に全然面白くないって言われても「あーこいつはアートが分かってないんだ」って開き直れるし(笑)。でも、現代美術の人たちはだいたいみんなプレゼンがうまいじゃないですか。文章もうまい人多いですね。人を説得するにはいかに言葉が大切かみんな分かってる感じ。現代美術は説得芸かな?

編集:世間で「現代美術家」と呼ばれる人たちの活動は、メディアの仕事をしているイラストレーター以上にメディアに深く関わる面がありますよね。

伊野:で、社会で今起きていることを作品に取り入れるってことも重要で、現代美術の世界で勝負しようと思ったら、そういうやり方はむしろ当たり前。以前、風刺画の話をしましたけど、現代美術って規模のデカい風刺画とも言えますね。分かりやすい例で言うと、Chim↑Pom*1とか会田誠*2さんみたいな。

現代美術の世界では単に好きとかで描いててもダメなんだって分かってから、腑に落ちたことがあるんです。よく現代美術の展示を観に行くと、入口のパネルに「この作家は3.11以降のコミュニケーションにおけるナンタラカンタラ」みたいなことが必ず書いてあるじゃないですか。あれは、そのための言い訳なんだって。

伸坊:アハハハ。そうなの?

伊野:きっと、約束事なんじゃないんですか。そんな言い訳いらないよ、現代に生きてる人が描いたり作ったりしてるのはみんな現代美術じゃないの? って思いますけど。

実際に3.11の東日本大地震が起こった時、誰も何も言えなくなったじゃないですか。あの直後はどういう絵を描いたらいいか分かんなくて、みんな無力感に打ちのめされてた。そんな時に、「ニューヨーク・タイムズ」に水木しげるさんが描いた絵が載った。津波に飲み込まれた人の手だけが海から出ている絵。水木さんは「こんな依頼が来てますよ」と言われて、数分で思いついて描いたらしいですね。まさに絵にしか出来ない表現だと思うし、描くべきことから逃げてない。あの絵を描けるのは水木しげるさんしかいない。あれを見たアーチストは全員、水木先生に向かって最敬礼したと思います。あの絵が僕にとって、究極の「社会と結びついた絵」ですね。あれが現代美術ですよ。

水木さんの絵が出たのは紙の方で、木内達朗*3さんとかの絵はWEB版の方に出てたと思うけど、やっぱりみんな描くのが難しそうだった。実は木内さんは「ニューヨーク・タイムズ」から日本人の作家で描いてくれる人を何人か紹介してくれと頼まれてたみたいで、「伊野さんも紹介しておいたよ」って言われてたんですが、結局「ニューヨーク・タイムズ」から連絡は来ませんでした(笑)。でも、もし依頼が来たら本当に何を描いていいか分からなかったから、来なくてよかった。あの頃ぼくは、自分の部屋のゴミ箱を写生して過ごしてました。気を落ち着けるために。

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2011年3月20日付「NYタイムズ」に掲載された水木しげる氏の描き下ろし作品を取り上げた都築響一氏のブログ「roadside diarys」(2011年3月22日掲載)の引用。「第二次大戦という地獄を生き延びたからこそなし得た究極の表現」と評している。

 

*1 Chim↑Pom 2005年に東京で結成されたアーティスト集団。メンバーは卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀の6名。映像やインスタレーション、パフィーマンスなど様々な表現形態で社会的メッセージ性の強い作品を発表。国内外の展覧会やアートプロジェクトに多数参加、展覧会のキュレーションなども手がける。

*2 会田誠(1965-) 現代美術家。絵画を中心に、立体、パフォーマンス、映像、インスタレーションなど多彩な手法による作品を発表。戦争、エログロ、社会問題、タブーなどを扱った作品はしばしば物議を醸すこともあるが、アイロニカルな批判性やメッセージ性を内包しており、多くの支持を集める。

*3 木内達朗(1966-) 国際基督教大学教養学部生物学科卒業後、アートセンターカレッジオブデザイン(N.Y.)でイラストレーションを学ぶ。小説の挿絵や書籍装画、絵本などを多数手がけ、ニューヨークタイムズやワシントンポストのイラストレーションなど海外の仕事も多い。2億枚刷られた英国ロイヤルメールのクリスマス切手や、ワールドワイド展開されたスターバックスのホリデーキャンペーンのビジュアルを担当。

■「流行っている」ことがもたらす魅力

伊野:ところで、「ザ・チョイス」*4って何年くらい続いているんですか。

編集:1981年から始まって、もう38年目になります。年度賞とザ・チョイス大賞展が83年からで、今年で35回目です。

伊野:「ザ・チョイス」から新しいイラストレーターのスターが生まれて来たと思うんですけど、ここ最近はどうなんですか。

編集:入選してプロになる人は常にいますが、すぐにスターになるというのは初期の頃だけで、今は売れるまでにある程度時間はかかりますし、売れっ子になると言っても一般に知られるほど有名になるわけではないです。

伸坊:それはイラストレーターっていう職業自体が、もう当たり前で地味になったんだよ。昔はイラストレーターって職業自体が珍しくて花形だったんだから、地味になっちゃってスターが生まれないってフツーでしょ。

伊野:ザ・チョイスでも、TISの公募展*5でも、「新しい表現になかなか出会えない」とかいう意見は審査員から必ず出ますね。でも新しい表現って印象派とかシュルレアリスムが出て来たぐらいのことを期待してるのかな。そういう大きい意味での新しい表現ってもう難しいと思うけど。例えば、自分に関して言えば時代物だったり風刺画だったり、もう終わったと思われてるジャンルに目を向ければ新しいこと出来そうだなって思ってた。でも、公募って場じゃなかなかそういうの拾われにくいですね。

12-2_TIS公募

第16回TIS公募展チラシ I=平井豊果

 

伸坊:でも、流行りってのは確実にあるんだよね。今までなかったものを持って来て、それが流行る。流行ってるもんには「流行ってる魅力」ってのがあるんだよ。

伊野:うん、ありますよね。流行ってる言葉使うと楽しかったりするし。でも自分は、今の時代がこうだからこう仕掛けようみたいな、電通の人みたいなこと出来ないですよね。1回くらい流行に乗って時代の寵児になってみたいもんだなぁ、無理だろうなぁ。伸坊さんはどうやって流行に……。

伸坊:オレ、流行ったことないから(笑)。イラストレーションって意味ではいつも外側にいたし、大体『イラストレーション』誌がオレんとこに取材に来たことない(笑)。TISから「入らないか」って誘いが来た時はびっくりした。

伊野:ご自分ではそういう認識なんですね。真ん中にいる感じで見てましたけど。しかもチキンラーメンのCMとかいっぱいテレビに出てたから、顔はそうとう流行ってましたね。

*4 ザ・チョイス 『イラストレーション』誌が1981年より毎号実施している誌上コンペティション。これまで数多くのプロのイラストレーターを輩出。たった一人の審査員が選ぶ審査法は、第1回目の審査員を務めた湯村輝彦の発案による。83年より年度賞とザ・チョイス大賞展を開催、第1回の大賞は日比野克彦。

*5 TIS公募展 東京イラストレーターズ・ソサエティが2001年より毎年開催しているイラスト公募展。受賞作品展も開催される。

■まだ流行ってないものを流行らせる創意工夫

編集:近年はコミック系やアニメ系のイラストレーションが台頭して、大きな潮流になっていますが、実は創刊当初の『イラストレーション』誌でも『ガロ』系の作家を中心に漫画家はよく取り上げていました。

伸坊:でも、当時の『ガロ』の絵は世間的に売れてたわけじゃない(笑)。そこが違うよね。今の、イラストレーションの分野にアニメ的な絵が出て来る状況とは違う。つまり、アニメの絵が今流行ってるのは読者がすでに「見慣れてる」からなんだ。まだ売れてない、目新しい絵を「これ面白いじゃん」って持って来るのとは全然違うと思う。そこは強調しておきたい。

昔、『ワンダーランド』*6って雑誌が創刊した時、ADの平野甲賀*7さんが新しい雑誌のための新しいイメージってことで、漫画の鈴木翁二の絵をイラストレーションとして使った。世間的にはほとんど知られてない、それを持って来たことに意味がある。今の編集者はそういうこと出来てるのかな。すでに売れてるアニメの絵や漫画家の絵を持って来るんじゃ、ただ失敗しないってだけじゃん。編集者としての創意工夫ってのが編集の醍醐味なのに。

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「平野甲賀と晶文社展」メインヴィジュアル
ギンザ・グラフィック・ギャラリーで2018年開催された展覧会の告知ヴィジュアル。『ワンダーランド』の表紙も入っている。


 
伊野:ええ、アニメ系イラストを『イラストレーション』誌が流行らせたなら胸を張ってよろしいですが……。そうか、『ガロ』の人ってそんなに売れてなかったんだ。子どもの頃はその人の経済まで考えて見てないから。でも、蛭子能収さんとか根本敬*8さんもすごく売れっ子って印象でしたね。ヘタうまがブームになって、うまい人までへたに描き出したりしたんですか?

伸坊:湯村さんはめちゃくちゃ売れてたけど、もともとイラストレーションの分野にいて、そこからはみ出る表現をしたんだ。伊野君なんかが捉えてる「ヘタうま」ブームの感じ方とオレの認識ちょっと違うみたいだな。蛭子さんや根本さんの影響力ってのも、どうもちゃんと把握できてないかもしれない。

ともかくさ、同じようなものが続けばいつかは飽きるんですよ。鈴木春信だって歌麿だって、あれだけ絵としての完成度があって、魅力があっても、なくなる時はなくなっちゃうんだから。浮世絵ってジャンル自体がなくなっちゃうんだもんね。

伊野:もうこんなのありきたりだってバーッと捨ててしまった。流行は面白いし怖いですね。昔はベルボトムジーンズが流行ったらベルボトム履いてないと恥ずかしいとか、クラス全員テクノカットとか。ウチの母親が「あんたが小学校の頃は、ジャージが流行ってジャージじゃないと恥ずかしかった」って昔のアルバム見るとちゃんとした場所でもジャージ履いててさ(笑)。そう考えると、今はどんな格好してても別に恥ずかしいことないですよね。

*6 ワンダーランド 1973年に晶文社から創刊された雑誌。植草甚一が責任編集を務め、サブカルチャー雑誌の草分けと言われる。3号目から誌名を『宝島』に変更、7号目から版元がJICC出版局(現宝島社)に移り、2015年まで刊行された。

*7 平野甲賀(1940-) ブックデザイナー。武蔵野美術大学在学中の1960年に日宣美特賞を受賞。高島屋宣伝部を経てフリー。独特のタイポグラフィで知られ、これまでに7000冊以上の本の装幀を手がけている。1964年から92年までの晶文社の全書籍を担当、同社のロゴマークも手がけた。

*8 根本敬(1958-) 1981年『ガロ』で漫画家デビュー。落書きのような画風と過激で不条理な内容で、自ら「特殊漫画家」を名乗る。漫画以外に、イラストレーションやエッセイの執筆、映像制作、装幀、講演など活動は多岐にわたる。2017年には「根本敬ゲルニカ計画」と題し巨大作品を制作。

■流行が個別化、細分化している

伊野:前に伸坊さんが「流行は健康である」とおっしゃってましたが、今は大きな流行がなくなって、みんなそれぞれ違うものを見てる状態。ネットがあるとそうなっちゃう。そういう状況から今後どうなっていくのか、それはみんなまだ未体験です。個人では、例えば前回のマルケみたいなのを見つけて「ああ、いいな」って思ったりして、自分の中の血液は入れ替わって健康状態は保てるわけですけど。

伸坊:そうだねー。メディアの状況も変わって来てるよね。週刊誌はもう役割を終えたかなって感じだし、美術雑誌なんかもそろそろ終わりに来てる。新しく目を楽しませてくれるイメージって、これからどっちの方から出て来るのかなあ。どっかにはあると思うけど、あまりにも広がちゃってて自分一人の力じゃ、もう探せないって感じだよね。そういうのを拾って来て「これ、いいでしょ」って見せてくれる人がいて欲しいってのはありますね。

伊野:SNSがある程度その役割を果たしていますね。いろいろな人が「これいいね!」って四六時中言い合ってますから。見てると疲れちゃうんですが、でも見ちゃう。ま、そうなると、ますます雑誌はどういう風に自分の存在意義を見つけていくのか。

編集:みうらじゅんさんが作った「マイブーム」という言葉がありますけど、ネット時代になって、趣味趣向が個別化・細分化されているとは思います。

伊野:個別化したことで、逆にやりやすいこともあるんじゃないですかね。多くの人を満足させなければいけないんじゃなくて。

伸坊:音楽の世界なんか、前からそうだったんでしょ?

編集:細分化されるという点では、音楽は一歩先を行ってるかもしれませんね。

(後編につづく)


取材・構成:本吉康成


<プロフィール>

伊野孝行 Takayuki Ino伊野自画像その121971年三重県津市生まれ。東洋大学卒業。セツ・モードセミナー研究科卒業。第44回講談社出版文化賞、第53回 高橋五山賞。著書に『ゴッホ』『こっけい以外に人間の美しさはない』『画家の肖像』がある。Eテレのアニメ「オトナの一休さん」の絵を担当。http://www.inocchi.net/


南伸坊 Shinbo Minami第12回アイコン_伸坊1947年東京生まれ。イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。著書に『のんき図画』(青林工藝舎)、『装丁/南伸坊』(フレーベル館)、『本人の人々』(マガジンハウス)、『笑う茶碗』『狸の夫婦』(筑摩書房)など。
亜紀書房WEBマガジン「あき地」(http://www.akishobo.com/akichi/)にて「私のイラストレーション史」連載中。

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