著作権の基本を抑えておこう|【Web連載】イラストレーターと著作権 第1回


【Web連載】イラストレーターと著作権 第1回

本連載は、イラストレーターやイラストレーターといっしょに仕事をする方々のために、著作権の基礎知識から運用上の注意点まで、主にQ&A方式でわかりやすく解説していきます。


著作権の基本を抑えておこう

イラストレーターの作品と権利を守るものとして著作権があります。著作権法は作者の権利を守りながら著作物が公正に利用されるための法律ですが、その運用は複雑で、自分が不利にならないためには注意が必要です。また、自身の権利を守るだけでなく、絵を描く際に他人の絵や写真を資料として用いる場合は、その資料の著作権に注意が必要です。イラストレーターは著作権を侵害される側にも侵害する側にもなりうるのです。

一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)編
アドバイザー:大川宏/亀岡知子(総合法律事務所あおぞら)
イラストレーション:中村 隆


■著作権の基本的な考え方と著作権法

Q:仕事で描いたイラストレーションには守られる権利があると聞きましたが、それはどんなものでしょう。

A:イラストレーターの作品は著作権によって保護されています。

仕事で描いたかどうかに関係なく、小学生が描いた絵でも「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1項1号)が著作物とされています。そして、著作物を創作した者を「著作者」といい、著作者に著作権という権利を認めています。「思想又は感情」とありますが、「思ったこと、感じたこと」程度の考え方でよいでしょう。小学生の絵や作文を著作物としているのもこの考えによります。

著作者は著作物を独占的に利用する権利を持っています。自ら利用することも、他人に利用させることもできます。また、排他権もあります。著作権者に無断で第三者が著作物を利用することはできません。無断利用者に対して、著作者は利用を差し止める権利があります。

その他、著作権法には、著作権の基本である人格権の他に付随するさまざまな隣接権も設定されています。

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Q:著作権の概念が生まれたのはいつ頃ですか。
またその背景にはどんなことがありましたか。

A:1710 年、イギリスのアン王女により版権保護を目的として最初の著作権法が定められました(アン法)。明治以降日本にその概念が紹介されました。

15世紀の半ばにグーテンベルグが活版印刷術を発明し、本の世界に一大変革が起きました。従来は、オリジナルの書物に対しては、書写・木版印刷という複製方法しかなかったのですが、活版印刷術によって本を大量に発行することが可能になりました。鉛で出来た活字を組み合わせれば、誰でも簡単にオリジナルのコピーを大量に作れるようになったわけです。いわゆる海賊版です。そうなると、著作者の創作意欲・経済的利益も損なわれます(もっとも、初期の頃は著作者と結びついていた出版業者の利益ですが)。そこで、著作者・出版業者にオリジナルをコピーする権利を独占的・排他的に与えたのが、著作権保護の始まりです。

日本に「著作権」の概念を初めて紹介したのは福沢諭吉であるといわれています。明治元年の『西洋事情外編巻之三』のなかでイギリスの経済書を紹介して、「copyright」(コピーライト)を「蔵版の免許」と訳しています。この語はやがて「版権」「板権」として広まります。 明治初期は、幕末に結ばれた不平等条約の撤廃が悲願でした。

イギリス等との間で通商航海条約が締結されていますが、そのなかで撤廃の交換条件として「ベルヌ条約」(1886年制定)への加盟が求められていました。そしてベルヌ条約に加盟するために、オブザーバーとして創設会議に参加した在イタリア公使館参事官・黒川誠一郎が、フランス語の「droitd’auteur litteraire」を「著作権」と訳しています。「著作」という語は漢語に由来する「書かれた文章」という意味です。その後、原義を離れて現在の用語法でいう「芸術」一般にも適用されるものとして広まり、「著作権」の概念が生まれたのです。

この「著作権」という語は、明治32(1899)年に制定された著作権法(「旧著作権法」)によって、それまでの出版条例などで用いられてきた「版権」に代わって正式用語となりました。

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■イラストレーションにおける著作権の範囲

イラストレーションに付随する著作権

著作者人格権

①公表権 著作物を公表するかどうかの自由、公表の時期や方法を決める権利。
②氏名表示権 著作物を公表する際に、作者名の表示の有無、実名かペンネームかを決定する権利。
③同一性保持権 著作者が意図しない著作物の内容や題名の改変を許さない権利。

※著作者人格権は原則として譲渡・放棄できない。ただし、「不行使」の契約を結ぶことで実質的に放棄することはケースによっては可能になる。

財産権

①複製権 印刷、写真撮影、複写、録画などによって著作物を有形的に複製する権利。
②公衆送信権・伝達権 著作物を電波媒体や有線放送、インターネットなどで送信・伝達する権利(送信可能化を含む)。
③翻訳・翻案権 著作物を翻訳、変形、翻案して2次的著作物を制作する権利。
④展示権 美術著作物や未発行の写真著作物の原作品を公に展示・発表する権利。
⑤譲渡権 著作物(映画を除く)の原作品または複製物を公衆に譲渡する権利。
⑥貸与権 著作物(映画を除く)の複製物を公衆に貸与する権利。
⑦2次著作物利用権 自分の著作物を原作品とした2次的著作物の利用について、2次的著作物の著作権者と同等に有する権利。

※財産権には他に演劇や音楽に関連した上演権・演奏権、映画等に関連した上映権、頒布権などがある。
※財産権については、合意や契約により第三者に権利の利用を許諾したり、権利を譲渡することが可能。後者の場合、原則的に原著作者の財産権はなくなり、人格権のみを有する形になる。一般に「著作権の譲渡」とは、この財産権の移動を意味する。

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東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)Webサイト


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一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)編
アドバイザー:大川宏/亀岡知子(総合法律事務所あおぞら)