キャラクターの著作権|【Web連載】イラストレーターと著作権 第5回


【Web連載】イラストレーターと著作権 第5回

本連載は、イラストレーターやイラストレーターといっしょに仕事をする方々のために、著作権の基礎知識から運用上の注意点まで、主にQ&A方式でわかりやすく解説していきます。

一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)編
アドバイザー:大川宏/亀岡知子(総合法律事務所あおぞら)
イラストレーション:中村 隆

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キャラクターの著作権

Q:法律上「キャラクターの定義」 というものはありますか?

A:絵に描かれた具体的なものから抽象的なイメージまで、幅広く設定されています。

著作権法その他の法律にはキャラクターの定義はありません。一般に、キャラクターとは「小説や漫画等に登場する架空の人物や動物等の姿態、容貌、名称、役柄等の総称を指し、小説や漫画等の具体的表現から昇華した抽象的なイメージ」であり、著作物ではないとされています。また、裁判所の判例も、「キャラクターといわれるものは、漫画の具体的な表現から昇華した登場人物の“人格”ともいうべき抽象的概念であって、具体的に表現したものということができない」(最高裁平成9年7月17日判決・ポパイネクタイ事件)として、著作物性を否定しています。

著作権法では、「アイデア」と「表現」を区別(二元論)しており、アイデアは著作物でなく、具体的な表現が著作物の対象とされています(2条1項1号)。作風・タッチ・技法・色遣い等は「アイデア」の範疇に入り、作風や色遣いを真似ても著作権侵害にはなりません。ただし、キャラクターの「具体的に表現された絵」を模倣すれば著作権侵害になります。イラストレーションにおいても、キャラクター=著作物ではない点に注意しつつ、「具体的な絵に表現されたイラストレーション」を模倣したかどうかを考えて下さい。

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Q:自分が考えたキャラクターを登録したりして、法律で保護してもらうことはできるのでしょうか?

A:著作権で守られる部分と、他の知的財産法(意匠登録や商標登録)で守られる部分があります。

具体的に「絵」とし て表現されているものは、著作権保護の対象になります。キャラクター・イラストレーションも具体的に表現された「作品」と類似している場合は著作権侵害の問題が起こります。

キャラクターが最初に裁判上の問題になったのは「サザエさん事件」(東京地裁昭和51年5月26日判決)でした。この事件では、バスの車体両側にサザエさん、カツオ、ワカメの絵を描いて運行していたことが問題になりました。ところが、これらの絵が具体的にいつの漫画のどのコマの絵か特定できませんでした。東京地裁判決は、「本件頭部画と同一または類似のものを『漫画サザエさん』の特定のコマの中に見出し得るかもしれない。しかし、そのような対比をするまでもなく、本件行為は長い年月にわたって新聞紙上に掲載され構成された漫画『サザエさん』のキャラクターを利用するものであって、結局のところ著作権を侵害する」として、具体的な作品との対比を要求しませんでした。しかし、その後の「ポパイネクタイ事件」では、最高裁判決で「キャラクターは著作物ではない」としていますので、現在は具体的に描かれた作品との対比が必要になります。

キャラクターは一定の範囲で著作権による保護が受けられますが、デザインとして意匠登録、商品・サービスについてのマークとして商標登録をすることによって、より広範な法律上の保護を受けることができます。

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Q:企業からの発注を受けて、企業のイメージキャラクターを制作しました。企業と制作者にどのような権利が生まれるのでしょうか(取り決めておく項目など)。

A:すべては契約内容によって決まります。どのような内容の契約にするかは、仕事を受けるときに決めましょう。

ここでは、イラストレーターの権利を最大限に確保する前提で基本的な2項目について説明します。

ひとつは契約の形式。権利譲渡ではなく、利用許諾であることを明確にする必要があるでしょう。「別紙イラストレーションの著作権および本件キャラクターを使用する権利」を譲渡するという文言にした場合、前段で具体的な作品の著作権を譲渡し、後段でキャラクターを使用する権利を譲渡しています。この条項では、具体的に描かれた前段のイラストレーションと異なる表現でもイラストレーターはそのキャラクターを次から使用できなくなります。キャラクターに関する権利はイラストレーターに留保して、権利の利用を許諾する方式にすれば上記の心配はなくなります。

もうひとつは、非独占契約にすることです。キャラクターの場合、「一業種」一社独占はあっても、「全業種」一社独占は避けるべきで、キャラクターの活躍の場を極端に狭くします。ただし、契約先が複数の事業を展開しているなどの特別な事情があるときはやむを得ないでしょう。

以下の参考条文例があります。

第○条 甲(イラストレーター)は乙(契約先)に対し、甲が著作権を有する別紙イラストレーション(以下「本キャラクター」という)を乙のイメージキャラクターとして使用する非独占的権利(以下「本キャラクター利用権」という)を許諾する。

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Q:キャラクター募集のコンペで「受賞作の著作権は主催者側に譲渡」という条件が付いていました。どうすればいいですか?

A:著作権の譲渡は行き過ぎです。応募を見送る方が賢明でしょう。

かつて、成果物の所有権は契約先に移転し、原画は返却しないとしたうえで、「乙(イラストレーター)から甲(契約先)に納品した制作物に関する著作権、複製権、頒布権、翻訳権および商品化権その他の一切の知的所有権に関しては、乙から甲へ移転するものとし、乙は甲に対し著作者人格権を行使しないものとする」という条文のある契約書について相談を受けたことがありました。

そもそも、作品そのものの所有権はもちろん、著作権もイラストレーターに帰属します。投稿した作品を返却しないということはあっても、原画の所有権、著作権まで主催者に移転するというのは行き過ぎです。よほど過分な報酬が約束されていない限り、応募すべきではないでしょう。

「著作者人格権の不行使」という条項についても注意が必要です。著作者人格権は、

①公表するかどうかの自由(公表権)
②氏名を出すかどうか、ペンネームを使うかどうかの自由(氏名表示権)
③無断改変を許さない権利(同一性保持権)

の3つがあり、いずれも作者に専属し、その人格と切り離せないものとされています。人格権は原則として放棄できません。

他方、経済的側面の比重が高い著作権の場合、著作物のジャンルや権利の種類等により著作者人格権保護の要請に強弱が生まれるのはやむをえないとされています。絵画、小説の場合、同一性保持権は堅守されます。プログラムのように人格の露出の程度が低い著作物については、著作者人格権を弱く解し、事前の契約で放棄を認める余地があるとされています。宣伝用パンフレットについて分割使用、氏名非表示について黙示の承諾を有効と認めた判例があります(長野地裁平成6年3月10日判決・白馬村観光パンフレット事件)。著作者人格権の保護の範囲は、個々の事例で個別的に判断されることになります。

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東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)Webサイト

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