絵を描くための資料にも著作権がある-01|【Web連載】イラストレーターと著作権 第6回


【Web連載】イラストレーターと著作権 第6回

本連載は、イラストレーターやイラストレーターといっしょに仕事をする方々のために、著作権の基礎知識から運用上の注意点まで、主にQ&A方式でわかりやすく解説していきます。

一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)編
アドバイザー:大川宏/亀岡知子(総合法律事務所あおぞら)
イラストレーション:中村 隆

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絵を描くための資料にも著作権がある-01

イラストレーターと著作権-06-01

Q:本(書籍・雑誌)やインターネットなどで見つけて来た写真や図を資料に絵を描くときに注意することは?

A:資料にする写真や図の著作権を侵害していないか、確認しましょう。

わいせつな写真やタレントの写真を資料に絵を描く場合には刑法や肖像権の問題が起こりますが、ここでは著作権法の観点に絞ってチェックポイントを考えてみます。結論から言うと、①利用許諾を得ているか ②資料の保護期間が切れているか ③資料に著作物性がないか ④他者の著作物に依拠・類似していないか の4点が問題となります。以下、順に説明します。

①利用許諾を得ていますか?

絵を描くための資料として写真や図を使用することで著作権侵害問題が起きるのは、その写真や図の原作者の了解を得ないで絵を描いた場合です。原作者の了解を得ているときは原則として問題はありません。ただし、了解を得ている場合でも了解の範囲を超えているときは、侵害になります。

許諾の範囲を逸脱した事例として、これはイラストレーターが被害者となったケースですが、学校案内冊子用に提供したイラストレーションを大きく引き延ばして校舎の壁面いっぱいに掲載された例や、利用許諾の範囲に入っていないのにイラストをWEB上に掲載された例があります。当然ながら、著作物の利用については、了解を得ている範囲でしか利用できません。

また、著作権フリーの写真などは著作者が事前に包括的に利用を許諾していると考えてよいでしょう。ただし、著作権フリー素材を一部改変して作品を制作し、コンペに投稿して入賞したのはいいけれど、後でこのことが発覚して賞が取り消された例があります。著作権侵害ではないですが、オリジナリティの問題です。

②著作権の保護期間内ですか?

原作者の了解を得ないで利用しても侵害問題が起きない場合があります。著作権の保護期間は長年、原則、著作者の死後50年となっていましたが、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(TPP11)が日本国で効力が生じるに至った2018年12月30日に、改正著作権法(51条2項)が施行され、死後70年に改正されました。保護期間が過ぎた写真や図は「パブリック・ドメイン」といって公の物になり、誰でも自由に利用ができます。これらを資料にした場合、侵害問題は起こりません。

③資料は著作物ですか?

著作権侵害になるかならないかは、資料にする写真や図が「著作物」に該当するかどうかがポイントです。資料に「著作物性」がなければ侵害問題は起こりません。写真の著作物性著作権法では、著作物の例示として「写真の著作物」が挙げられています(10条1項8号)。

写真の著作物性

著作権法では、著作物の例示として「写真の著作物」が挙げられています(10条1項8号)。写真の定義はありませんが、写真とは「物理的または科学的方法で被写体をフィルムや印画紙等に映像として再現するものを指す」とされています。また、「写真の著作物」には「写真の製作方法に類似する方法を用いて表現される著作物を含むものとする」(2条4項)とされていますので、デジタル写真も入ります。

しかし、すべての写真について著作物性が認められるわけではありません。立体的なモチーフ(例えば彫刻)を撮影した写真ついては、被写体の選択、被写体のポーズ、構図、背景、照明、アングル、シャッターチャンス、露光時間、焦点深度などのいろいろな要素によって、個々の作品に相違が出る、つまり写真家の個性が作品に表れるので、基本的には、著作物性が認められます。

ただし、同じ立体的な物を撮影した写真でも、監視カメラで撮影された写真、自動証明写真、プリクラ写真などは著作物性がないとされています。

図の著作物性について

つぎに、図は、「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物(10条1項6号)」と著作物の例示として規定されています。ただし、例示されているように、図には種々なものがあり、事実を忠実に再現する図は作成者の個性が反映される余地が少ないので、著作物性がないとされています。「空港案内図事件」(東京地裁平成17年5月12日判決)

では、空港のフロア案内図の著作物性を認めたうえで、フロア案内図を「空港利用者の実用に供するという性質上、選択する情報の範囲が自ずと定まり、表現方法についても機能性を重視して、客観的事実に忠実に、線引き、枠取り、文字やアイコンによる簡略化した施設名称の記載等の方法で作成されるのが一般的であるから、情報の取捨選択や表現方法の選択の幅は狭く、作成者の創作的な表現を付加する余地は少ない」としたうえで、結果として著作権侵害を否定しました。

なお、著作権法上「思想または感情を創作的に表現したもの」だけが著作物性を持つとされています(2条1項1号)。表現と「思想・感情」(アイデア)を二分し、具体的な表現に創作性(作者の個性)が表れているかどうかで著作物性があるかを決めることになります。アイデア自体(イラストレーターの場合、作風、技法、タッチなどを含む。)は著作権による保護の対象ではないとされています。

④他者の著作物に依拠・類似しているか?

著作権侵害の要件は、他人の著作物に依拠することと、他人の著作物と同一または類似であることです。依拠していないときも侵害問題は起こりませんが、絵を描くための資料にした場合は依拠要件が認められる公算が大です。あとは「同一である」か、または「類似している」かですが、類似しているかどうかについては慎重な判断が必要です。類似は、「実質的同一」とか「原著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる」といわれています。


博士イラスト事件

(東京地裁・平成20年7月4日判決)

幼児向け教育用ビデオの博士イラストの類似が争われたケース。

判決は、「原告博士絵柄の……角帽やガウンをまとい髭などを生やしたふっくらとした年配の男性とするという点はアイデアに過ぎず……きわめてありふれたもので表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない……したがって、…… 複製権や翻案権を侵害していると認めることはできない」とした。

素人目には両者は似ているように見えるが、似ている箇所がありふれた表現で創作性を感じ取れない場合は、著作権法上は「類似しない」ことになる。

イラストレーターと著作権-06-02

原告

イラストレーターと著作権-06-03

被告


東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)Webサイト

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一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)編
アドバイザー:大川宏/亀岡知子(総合法律事務所あおぞら)