イラストレーターの仕事のトラブル-01|【Web連載】イラストレーターと著作権 第10回


【Web連載】イラストレーターと著作権 第10回

本連載は、イラストレーターやイラストレーターといっしょに仕事をする方々のために、著作権の基礎知識から運用上の注意点まで、主にQ&A方式でわかりやすく解説していきます。

一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)編
アドバイザー:大川宏/亀岡知子(総合法律事務所あおぞら)
イラストレーション:中村 隆

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イラストレーターの仕事のトラブル-01

 

イラストレーターと著作権-10-01

 

Q:ある書籍の装画として提供した絵が、その出版社の広告に使用されていました。別途、使用料を請求できますか。

A:ケースバイケースですが、イラストだけを抜き出して使用した場合は規模や使われ方によっては請求できるでしょう。

装画や挿絵を提供した場合、その作品や本の告知や広告宣伝に使用されることが多くあります。包括的許諾(→3章)をしている場合はもちろん、契約書を交わすケースでも大抵はあらかじめ盛り込まれています。文書を交わさず口頭や簡単なメールで仕事が進んでいくケースでも、ここまで含まれていると考えた方がよさそうです。イラスト料にどこまでの使用を含めるかは交渉事になりますが、告知宣伝に関わる2次使用については、出版社側は特に追加料金を払う必要はないと考えていることがほとんどです。

絵と文字が配置されデザイン処理された本の表紙(書影)や誌面は「共同著作物」であり、これらに関しては、出版社は広告宣伝に自由に使用できます。問題はこれらの絵柄を抜き出して別の形で使用されるケースです。純粋に担当した作品の告知宣伝であれば上記の範囲内と考えることもできますが、まれにその出版社全体や作家のフェアのような大規模なものに使用されることがあります。そのようなケースでは交渉して何らかの追加報酬を求めてよいでしょう。もし事前にその相談がなかったとすれば、そのことの方が問題です。


Q:イラストレーションを含めWEBにアップされた画像は誰でもコピーできてしまいますが、WEB上の著作物に関する法律を教えてください。

A:WEB上の著作物に関連した権利として、複製権や著作者人格権、公衆送信権などがあります。

WEB上には、イラストレーションはもちろん、小説、動画、音楽といったさまざまな著作物が流通しています。WEB上の著作物に関する法律としては、著作権法の他に商標法、不正競争防止法、意匠法などが関連しますが、ここでは著作権法上の権利について説明します。

あるイラストレーターのイラストレーションを第三者が勝手にブログにアップロードした場合、著作権法上どのような権利侵害が生じるでしょうか。まず、インターネットを利用していますので「公衆送信権」の侵害が生じます。公衆送信とは、公衆(不特定人もしくは特定かつ多数人)に対して、無線(インターネット、ラジオなど)または有線(ケーブルテレビなど)で送信することをいいます。また、サーバーに情報をアップロードして誰でもインターネットを利用してその情報にアクセスできる状態にすることを「送信可能化」といいますが、この送信可能化も公衆送信権に含まれます。したがって、第三者の行為は、イラストをブログにアップロードすることにより、誰でもアクセスしてイラストを見ることができる状態にしていることから、公衆送信権の侵害となります。

また、第三者の行為はサーバーにイラスト画像をアップロードする時点で画像を複製していることから、複製権侵害にも該当します。複製権について、「私的使用のための複製は自由である」とされていますが、ブログは不特定多数人のアクセスが可能で、実際に不特定多数人からのアクセスが予想されますので、もはや「私的使用」とは言えないと考えます。さらに、第三者がイラストに手を加えてアップロードした場合、翻案権や同一性保持権(著作者人格権)等の侵害も問題となります。


Q:WEBコンテンツの著作権保護について、出版社・配信会社とどのようなことを決めておけばいいですか。

A:利用許諾や利用料は紙の媒体に準じますが、著作権の侵害やデータ流出などが起こった場合の対応策を決めておくと良いでしょう。

パソコンの普及、インターネットの登場により、誰でも安価もしくは無償で著作物を公表することが可能になっています。WEBマガジンもその一つで、イラストレーターが仕事でWEBマガジンにイラストレーションを提供することも増えています。

WEBマガジンであっても、イラストレーションの利用を許諾するにあたり、その範囲、期間、利用料等を取り決めることは紙媒体と同じです。その他、WEBマガジン(雑誌)という特殊性から生じると考えられている問題点を2つ紹介いたします。

1つめは、インターネット上の著作物は違法コピーが容易なことです。違法コピーに対しイラストレーターが差し止めや損害賠償請求などの措置をとる際、出版社の協力が得られなければイラストレーターとしては安心して作品を提供できません。この点、WEBマガジンに前述した電子出版権を設定することができれば、出版社自身も差し止め等の手段をとることができます。しかし、マガジン(雑誌)は、記事・イラスト・写真等いろいろなコンテンツで構成されており、多数の著作権者が関与します。また、配信される期間も限定されます。そのため、雑誌において電子出版権が今後機能していくか、不透明であるという意見があります。いずれにせよ、違法コピーなど不正行為が生じた場合にイラストレーターと出版社・配信事業者がどのように協力して対応していくかという取り決めをすることは有益と考えます。

2つめは、イラストデータの管理の問題です。デジタルデータですから、出版社・配信事業者が保管しているデータが誤って流出する可能性があります。契約期間終了後、出版社・配信事業者は預かっているデータを削除するのか、削除しない場合はどのように適切に管理していくのか、誤って流出した場合どのように責任を取るのかということも問題になります。イラストレーターとしては、出版社・配信事業者とよく協議した上で、お互い納得のいく契約を締結することが望ましいです。


東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)Webサイト

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一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)編
アドバイザー:大川宏/亀岡知子(総合法律事務所あおぞら)