第13回TIS公募 審査結果発表 傾向や印象について、公募委員長・佐々木悟郎さんに聞く


第13回を迎えた東京イラストレーターズ・ソサエティ(以下、TIS)の「TIS公募」審査結果が発表された。今回の応募総数は、682名(2,121作品)。その中から32名の入賞・入選が選ばれた。
入賞・入選のみなさんを以下にご紹介するとともに、すべての審査を終えた今、応募作品全体の傾向や印象について、TIS公募委員長・佐々木悟郎さんにお話しをうかがった。

 
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入賞

TIS大賞:該当者なし

金賞:彦坂木版工房

金賞:彦坂木版工房

金賞:彦坂木版工房 「クリームパン」

 
銀賞:家村ルミコ 中島陽子

銀賞:家村ルミコ

銀賞:家村ルミコ「相模七里か浜 露天風呂」

銀賞:中島陽子

銀賞:中島陽子「バスタブの女」


 

銅賞:山本由実

銅賞:山本由実

銅賞:山本由実「Double dealer(Transformers)」

入選

青木欣二/浅妻健司/いとうひでみ/岡村亮太/沖野 愛/片倉 航/川島慎平/北住ユキ/K.タエコ/ 毛塚隼人/近藤 涼/斉藤ヤスタカ/桜餅シナモン/さぶ/須田浩介/TAKUMI YAMAMOTO/田代夏子/谷端 実/波田佳子/初谷佳名子/平井利和/藤井紗和/星野ちいこ/水内実歌子/南 景太/村上朋子/目黒雅也/ワタナベモトム
〔五十音順・敬称略〕
 
詳しくは、東京イラストレーターズ・ソサエティ Webサイトで。
 


■インタビュー:今年の審査を終えて
佐々木悟郎さん(第13回TIS公募委員長)に聞く

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Q:今回審査をされていて、全体の傾向でお気づきになったことはありますか。

今年に限らずこの3~4年の傾向ですが、社会全体に特に「これ」というトレンドがない中で、応募作品のテーマ設定も個人的なこだわりが中心になっているような気がします。個人的な趣味や趣向がまずあって、その延長線上でテーマ設定している作品が多かった。ある意味、内向的ではありますね。

ただ、仕事でイラストレーションを描く場合は、クライアントなど「外」に向けて描くわけですが、コンペに向けて自分の描きたいものを描く場合、どうしても自分の内面に意識が向かっていくのは、ある意味当然です。だから、内向的であること自体は悪いことではありません。

Q:今回は大賞の選出がありませんでした。作品のもつ「突破力」のようなものが不足しているという評価でしょうか。

もちろんそういう面はあります。僕らがまだ若かった80年代、イラストレーションが元気だった頃は、どこか上手さよりインパクトや新しさを求める傾向がありました。乱暴とも言えるようなエネルギーがあった。羽目を外すのがカッコイイみたいな(笑)

しかし、今は経済的な厳しさも手伝って、「元気」だけじゃ何も伝えられないという冷静な視点がイラストレーターの中に育っているように感じられます。そのことをもって「元気がない」とする見方もあると思いますが、僕自身はそれほど否定的ではありません。
デザインにしろ、イラストレーションにしろ、もう生まれた時から周囲に完成されたものがあふれていて、そうしたものを「見る目」が豊かになっている。だから目指すところも高い。イラストレーションというジャンルの成熟を示しているという見方もできると思います。

Q:「表現」という意味で特徴的だったことはあるでしょうか。

布、糸、編み物など、紙・絵具以外の素材をそのまま使った作品が増えていますね。これは、ひとつにはライフスタイルを重視するということがあるんだと思う。雑貨が好きとか、人形・縫い物とか、そうした趣味の延長に作品としての表現があるということではないでしょうか。
別の言い方をすると、生活感覚のようなものを大事にして作品にしている。何気ない日常に、きめ細かく目配せしている感じです。今回金賞を受賞された彦坂木版工房さんの作品モチーフは「パン」ですからね。僕らにはパンを描いて作品になるという感覚はなかった。(笑)

もうひとつ、質感や手触り感を大事にしたいということもあると思います。質感をそのまま見て欲しいということでしょう。いま、デジタル化したデータで応募してもらうコンペが増えていて、それはそれでひとつの考え方ですが、TISでは現物での応募にこだわっていきたいと思っています。質感、手触り感も作品の魅力のひとつですからね。

そのことと関連するかもしれませんが、最近の若い人には、古いものへの憧れが感じられます。昭和のテイストなど、何か古さの中に味わいを求めているのでしょうか。世の中が行き着くところまで行ってしまっているという閉塞感を敏感に捉えているのかもしれません。

4~5年前には「これぞデジタル!」というような作品も多かったのですが、最近はそういうものは減りました。もちろんそういうものにも良い作品はありますが、最近の傾向として、デジタルには見えないけれどよく見るとデジタルという作品や、デジタル処理したものをあくまで素材として表現したものなどが多い。やはり、デジタルで描くという表現ジャンルにも、ある種の成熟が訪れているのかもしれませんね。

Q:来年以降に応募する方々に向けてアドバイスなどがありましたらお願いします。

特に「ウケ」を狙う必要はありません。自分の視点をしっかりもって、描きたいものを描いて欲しいと思います。
今の時代をちゃんと生きている人なら、すべてこの時代の代弁者たり得るわけです。しかもそこに正解はない。ウケを狙ったり羽目を外すより、今をちゃんと生きる。そういう姿勢が感じられる最近の若いイラストレーターたちに、僕は希望を持っています。


なお、公募展覧会は10月8日(木)から22日(木)まで、南青山のギャラリー5610で行なわれる。レセプションパーティー・授賞式をはじめ、会期中にはトークイベントやイラストレーションクリニックも行なわれるとのこと。詳細は改めてお伝えする。

【取材:イラストレーションファイルWeb】

 

佐々木悟郎
イラストレーター
1956年生まれ。愛知県立芸術大学、Art Center of Design卒業。
’81 Society of illustrators入賞、’83年NAAC展特選、’00年講談社出版文化賞さしえ賞。
著書「水彩スケッチ」(美術出版社)、「ソングス・トゥ・リメンバー」(Yamaha Music Media)。
文星芸術大学教授。
http://www.gorosasaki.com