東京装画賞2015の審査を終えて。「仕事に繋げるコンペティション」のコンセプトを、実行委員長・山田博之さんに聞く。


先日の記事で東京装画賞2015の入選作を紹介したが、3回めを迎え、新しく生まれ変わった東京装画賞がどのようなコンセプトで行われたのか、実行委員長の山田博之さんにお話をうかがった。

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■インタビュー:今年の審査を終えて
山田博之さん(東京装画賞2015実行委員長)に聞く

東京装画賞2015の審査結果が発表されました。
東京装画賞のWebサイトを拝見すると、アートコンペではなく「装画」という職能に基づいたコンペであると明確に位置づけておられます。その観点から、今回審査にあたって最も重視したポイントをお話しただけますか?

そのWebサイトでも申し上げているのですが、このコンペの選考基準は「その本の魅力を伝え、 読者の手に取らせる力のある作品」であること。これが東京装画賞のコンセプトのほとんどすべてを表現しています。

ポイントは「仕事」としての装画であること。普通、アートコンペティションでは、既視感のない作品、インパクトの強い作品が評価されることが多いと思いますが、東京装画賞では、あくまで「仕事」を意識した選考を行なっています。つまり、プロのデザイナーや編集者の視点で、このイラストレーターといっしょに本を作りたいと思えるかどうかという観点で応募作品を拝見しました。

一般部門【金賞】小林達介

一般部門【金賞】小林達介さんの作品


審査の過程で、いちばん印象に残ったことは何でしょうか?

今回の選考過程でいちばん強く感じたのは、応募者のプロ意識の高さです。全体的に、装画というものをよく理解していてクオリティがかなり高く、第一次選考では絞り込みが難しくて困ったぐらいでした。(笑)うれしい悲鳴なんですが、そういう意味ではこのコンペの主旨に沿った作品が多かったということが言えると思います。

今回の課題図書は、『あ・うん』(文芸部門)、『タイム・マシン』(SF部門)、『オズの魔法使い』(児童書部門)でしたが、それぞれの部門で際立った特徴や傾向はあったでしょうか?

応募作品数は、3部門でほぼ三等分された感じですね。
それぞれの部門で作品のテイストが異なるのは当然ですが、傾向としては、最近流行っているアニメ的なテイストの作品は『タイム・マシン』と『オズ』、正統的な装画への意識が高い作品は『あ・うん』に多かったですかね。いずれにしても、どの部門もおしなべてクオリティが高かったと思います。

装画(ブックジャケット)のコンペですから、本のタイトルや作家名など、文字を含めたデザインが求められるわけですね。

もちろんそうなんですが、コンペの対象はイラストレーターであって、デザイナーではありません。評価にあたって重視したのは、あくまでイラスト。繰り返しになりますが、このイラストレーターと本作りの仕事をしてみたいかどうか。そこが選考にあたってのいちばんのポイントでした。

一般部門【銀賞】緒賀岳志

一般部門【銀賞】緒賀岳志さんの作品


山田さんはイラストレーション・スクールも主催し、日頃から若いイラストレーターやプロを目指す人たちと接しておられます。「仕事として成立するイラストレーション」という意味では、スクールでのご経験と今回の審査で感じられたことが重なる部分はありますか?

プロのイラストレーターとして仕事をしていくためには、技量だけではなく考え方も大事です。若い人たちと接していると、どうも作品として無理に作りこまなくてはいけないという思い込みが強すぎるような気がします。スクールでは、そうした思い込みを頭から外し、素直に自分の絵を描くように指導しています。

その思い込みが、自らの幅を狭めていると?

そうですね。自分の作風、タッチというものを明確に限定しないといけないのではないか、という思い込みもかなり強いようです。そうしないとクライアントに評価されないのではないか、と。
しかし、実は逆なんです。作家自身が認識できる作風、タッチというものは、第三者からすると匂いが強烈すぎてむしろ仕事につながりにくい。そうではなくて、身の回りのものを素直に描ききる画力さえあれば、書物をはじめ、さまざまな世界との親和性が生まれ、むしろデザイナーや編集者が、そのイラストレーターを選択しやすくなるんですね。
そもそも「絵」というものは、同じモチーフであっても自分なりに素直に描けば、その描き手の個性がちゃんと表現されるものです。無理な作りこみなどしなくても、決して同じものにはならない。それがおもしろいところですよね。

一般部門【銅賞】出口敦史

一般部門【銅賞】出口敦史さんの作品


なるほど。東京装画賞では、そうした「プロ」としての視点で審査が行われたということすね。
では最後に、来年以降「東京装画賞」に応募する方々、あるいは「装画」というジャンルに取り組もうとしている方々へのアドバイスをお願いします。

昔はイラストレーターになったら、まずは大きなポスターを描きたいという希望があったと思うのですが、残念がら今、ポスターにイラストレーションが使われることが少なくなっています。その点「装画」は、若い人たちにとっても、非常にチャンスの多いジャンルです。

コンペに応募する方々は当然、入選をきっかけにしてプロになりたい、あるいは仕事を増やしたいという思いを持っておられるはずですが、なかなかそううまくはいかないのが現実です。しかし東京装画賞は、約200名のブックデザインのプロ集団である日本図書設計家協会が主催するコンペですから、入選者に対しては、責任をもって仕事につながるようバックアップをしていきたいと考えています。
ですから、来年以降に応募を考えている方にはぜひ、これをコンペだと思わず、実際に仕事を発注された、という意識で作品を描いて欲しいと思います。

それからもうひとつ、本の表紙を、ひとりよがりな作品発表の場だと考えないこと。あくまでその本が持っているイメージに忠実に、素直に表現することが、その本を読者の手に取らせる力になるのであり、編集者やデザイナーに「いっしょに仕事をしたい」と思わせることにつながるんだと思いますね。
 
yamadahiroyuki

山田博之
イラストレーター
1961年京都市生まれ。82年嵯峨美術短期大学ビジュアルデザイン科卒業。
06年S&Bスパイスボトルイラストレーションにてグッドデザイン賞受賞。14年ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ入選。
山田博之イラストレーション講座主宰。
TIS、SPA会員。
http://hiroyuki-yamada.com
http://i.fileweb.jp/yamadahiroyuki/

第3回東京装画賞2015展と表彰式は以下の日程で行われる。

第3回東京装画賞2015展
会期:9月11日(金)〜20日(日)
時間:10:30〜19:00(会期中無休、入場無料)
場所:ギャラリーTOM
〒150-0046 東京都渋谷区松涛2-11-1
電話: 03-3467-8102
http://www.gallerytom.co.jp/index.html

表彰式と受賞パーティー
9月12日(土)14:00〜17:00
※参加費無料

【取材・文責:イラストレーションファイルWeb】

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