「絵を描いて生きていくこと」Inspiration on Behance、トークイベント・レポート
1月27日(金)と28日(土)の両日、東京 渋谷のHOLSTER Galleryで、アドビ主催のイベント「Inspiration on Behance – 日本クリエイター名鑑 Exhibition Gallery」が開催された。
初日の夜には、白根ゆたんぽ、師岡とおる、長嶋五郎、水野健一郎の4氏による「絵を描いて生きていくこと」と題するトークセッションが行われた。一般の人が「絵を描く仕事」に対して感じている素朴な疑問に、プロのクリエイターたちが一問一答で回答する形式で進められたトークは終始なごやかな雰囲気で進められたが、来場者は第一線のプロの貴重なアドバイスを聞き逃すまいと、真剣な表情で聞き入っていた。
Inspiration on Behance -日本クリエイター名鑑 Exhibition Gallery @HOLSTER Gallery(東京・渋谷) 2017年1月27日(金)20:00〜 トークセッション「絵を描いて生きていくこと」 |
齋藤:「絵を描いて生きていくこと」が今日のテーマです。イラストレーターやアーティストが、普段どうやって生きているのか、知っている方のほうが少ないと思うんですよ。ですから、具体的に聞きたいのは、日頃どういう仕事しているのか、どんな仕事があるのか、どんなふうに依頼されるのかなど、実務的なところをお伺いします。
まず、みなさんをご紹介しますね。
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白根ゆたんぽさんは桑沢デザイン研究所卒業後、フリーのイラストレーターとして活動されています。桑沢デザイン研究所ってどういう学校なんですか?
白根:デザインの学校ですね。だから学校でイラストレーションを習っていたわけではなく、卒業後に独学です。仕事は、雑誌とか広告とか、Webとかいろいろやっています。
齋藤:クライアントワークのほかに、ギャラリーやキュレーターからの依頼などでご自分でも企画展を開催されているんですよね。(個展『抽象・具象・その他美女など』)
白根:個展をやったりしています。
師岡:もう昔の絵は載せないんですか?
白根:作風が変ったというよりは、増えてるっていう考え方なんですよね。別の方向に舵切ったんじゃなくて、やることが増えている感じ。ラーメン屋さんのメニューにカレーができたみたいなことですね。
齋藤:そういう感じです。
◎
齋藤:続きまして、師岡とおるさん。みなさんご存知の「痴漢防止キャンペーン」でも”60年代の少女漫画風”というような、時代の空気そのものを表現するような、バラエティ豊かな方法でイラストを描いていらっしゃいます。
師岡:すごく簡単に説明すると、全部「他人の絵」なんです。
齋藤:誰かのスタイルをそのまま模倣というよりも、コンセプトをもって時代のアイコンを描ききっているので、そもそも実力がないとできないですね。
師岡:「師岡さんは人の真似ばっかして、なんで怒られないんですか?」って聞かれたことがあります。でも、僕は「人の真似したんじゃなくて、時代を描き起こしているんです」って答えた。例えば、手塚治虫先生はアメリカのコミックの真似をしてるじゃないですか、実際。それでトキワ荘の人たちもみんな影響受けている。そのあと劇画がはじまって、みんな劇画描き出すんですよ、それを僕が描いてなんで怒られるんだって話。
白根:カッコイイ。
水野:(コマの)漫画だったらよかったんだね。
師岡:漫画は描けないの。
齋藤:師岡さん自体は少女漫画に思い入れがあったりするわけではない?
師岡:少女漫画と劇画が、いちばん個性が強いから真似しやすいんです。デザインができている。
齋藤:その目のつけどころがすごいなって思います。
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続きまして、長嶋五郎さん。
長嶋:僕は絵で仕事するっていうイラストレーターの側面と、アーティストとの境目の意識が薄い。「いいもの描いてればどうにかなる」っていうぼんやりした時期があって、個展をやった2年後くらいに、蓮沼執太くんのCDジャケットに使われたりしてたから、それに拍車かかちゃった部分もありつつ。
齋藤:作家として活動し始めたのが遅かったという長嶋さんですが、作家として活動するということについてどう考えていますか?
長嶋:いい物を作ればどうにかなる、っていう考えがいまの時間の過ごし方に対する保険みたいな側面があると思うようになってきたけど、最近はだいぶ意識が変わってきてはいます。
水野:僕もずっと、いい絵を描けるようになればなんとかなるって信じてました。
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齋藤:最後に、水野健一郎さん。水野さんは今回イラストレーターではなく、アーティストとして参加していただいています。ドローイング、グラフィックで、アニメーションと作品の幅が広い。ファッションデザイナーなど、色んなジャンルのクリエイターとコラボレーションして作品集を作られていますね。
水野:肩書きをアーティストにしている理由を話すと1時間くらいかかるんで省略します。
絵描きになった理由は?
齋藤:絵描きになった理由を教えてもらえますか?
白根:学生のとき公募展ブームで、パルコの日本グラフィック展に憧れちゃって、公募に作品を出すようになったんです。日比野克彦さんとか、大賞獲った人みたいに活躍できたらいいなっていうところから始まった。卒業直後にバブルがはじけて、世の中が地味になっていったときに、絵で生活できる方法ないかなと思ったら、イラストレーターという仕事があると気づいて、そこからですね。
齋藤:絵を描いて生きていくためには「アワード」で名を挙げるというのは有効だと思いますが、今はどういうものがありますか?
白根:イラストレーション誌の「ザ・チョイス」とか、リクルートの「1_WALL」とかコンペはたくさんありますよ。ただその頃は今よりもコンペの影響力がすごく大きくて、大賞獲るのがちゃんとニュースになったくらいなんです。
師岡:僕は漫画家になりたかったけど、全然才能がないのに気づいちゃったんですよ、小学3年くらいに。ただ、たまたま自宅のそばに美術大学があったんでそこに入った。美術大学だからみんな絵を描いてると思ったら、誰も描いてないんです。じゃあ自分だけはやんなきゃな、と思っただけですね。
長嶋:僕は高校留年しちゃいまして、進路どうしようって話をしているときに、美大でも行けばと言われ、すごく衝撃を受けた訳ではないけど、知らなかった美術の世界を知ることができた。なりゆきで武蔵野美術大学に入って、いろんな紆余曲折があった上で、なんとなくここにいます。
水野:僕は絵以外何にもできない。挫折、挫折で、しょうがなく絵をやるかみたいな。
齋藤:水野さんはアーティスト以外のイメージがあまりわきませんが、他のことをやろうとしたことあったんですか?
水野:大学の理工系学部を中退してるんですけど、バイトしても全然長続きしないし、食べていくためっていうか、最後は絵しかない、みたいなことですね。
齋藤:アーティストの方はそういう方が多いかもしれませんね。積極的というよりも、ほかのことを総当り的にやったうえで、結局これしかできない、という。
最初にやったのはどんな仕事?
齋藤:それでは皆さんに、「絵描きのリアル」についてお伺いしていきます。最初にやったのはどんな仕事でしたか?
白根:パルコの「ゴメス」ってフリーペーパーがあって、その編集部に出入りするようになりました。最初、イベントの人員整理とかしてたら、連載をもらえるみたいな話になり、あとはちょこちょこ。
イラストレーターって、一本仕事やったからデビューってわけでもなく、ちっちゃい仕事を積み重ねているうちに、食えるようになるパターンのほうが多いかと。
師岡:僕は、たぶんBEAMSに置いてあったカタログがきっかけ。BEAMSなのに狂った表紙で、BEAMSでデザイナーさんの連絡先を聞いて絵を持って行ったら、スタン・ハンセンの大きなPOPが置いてあったので、ずっとプロレスの話してました。デザイナーさんがきっと僕のこと気に入ってくれたらしくて、「リトルモアの仕事とってきたから」みたいな感じで言ってくれたのが、吉本ばななさんの連載の仕事に繋がった。
齋藤:BEAMSに電話をかけて、デザイナーを聞く行動がすごいと思いますよ。普通考えつかないです。
師岡:仕事がなかったんですよ。そ
長嶋:師岡はそのころからイラストレーターになろうと思ってたの?
師岡:思ってたし、それくらいしかないと思ってた。
水野:僕が師岡くんと知り合ったのも、公募展でした。さっきゆたんぽさんが言った公募展に僕も出してたんですよ。JACA展とか日本グラフィック展とか。作品を出すときに僕の数十メートル前を師岡くんが歩いてて、同じように出しに来てる人がいるなと。で、受付でちょっと前の人の絵が見えるじゃないですか。「すげーな、この人ぜったい入選するな」って思った。
師岡:まだパクってない時代。もうちょっというと、美術大学がつまんなかったんです。公募展っていうのがあるというのでパルコに見に行ったら、白根さんがまだ本名でやってた頃のが入選して、面白いと思った。
白根:それ準入選ですね。
水野:公募展の大先輩だったんですね。
齋藤:次に長嶋さん、お願いします。
長嶋:ちょっと変な話になるんですけど、友人の身内に不幸があって、四十九日に行ったときに、そこで知り合った方が編集者の人だった。「僕、今絵描いてるんです」って言ったら、今度見せてよみたいな話になり、『STUDIO VOICE』の最後の編集長の松村さんという方を教えてくれて。その2年くらい後に松村さんから中原昌也さんがいろいろなフェスに行きそれを文章にする、3回で終わっちゃったまぼろしの連載の仕事をいただきました。それがいちばん最初ですね。
齋藤:きっかけが汎用性がなくて、おもしろいですね。では、水野さん。
水野:自分はイラストレーターじゃないって言ってるけど、仕事となるとイラストレーションなんだよね。最初がどれだかあまり覚えてない。『WIRED』かな。いちばん最後の号。休刊後、『サイゾー』に行くんですけど、『WIRED』はすごく苦しみながらやった記憶がありますね。そのあと知り合った師岡くんが、僕のファイルを見せたいって『サイゾー』の編集部に持って行ってくれた。しばらくそこに置いてあって、何年もたってから『サイゾー』の仕事が来ました。
師岡:僕、マネージャーだったの。(笑)
水野:師岡くんには頭上がらないですね。
齋藤:どれもびっくりするほど行動的ですね。まずは行動する勇気が大事なんだなっていうことが分かりました。
絵を描くって、どういう仕事?
齋藤:次の質問は、具体的に絵を描くという仕事って、どういう仕事があるのでしょう、ということ。
白根:いろいろありますよね。雑誌とか広告とか、CDジャケット、Webもありますし。
齋藤:ひとつの仕事にはどれくらいの時間がかかりますか?
師岡:相手次第、クライアントがどんだけ付き合ってくれるかってことなんです。あんまり自分の形をつくらないってことは、いままで描いたことないものを頼まれるんですよ、毎回。だから自分でも、どんだけ時間かかったのか分からないです。
白根:どこまでを仕事ととるかで変わるんですけど。打ち合わせとか、ネタ出しとか、調べ物しているのも仕事に入れるのか。ここで聞きたいのは、一枚の絵を描いてる時間がどれくらいかっていうことだと思うけど、それはもうバラバラ。
長嶋:白根さんは昔の塗りのタッチだったら、だいぶ時間かかりますよね。同じ手法の人よりは早いですけどね。
白根:そうですね。でも、ただ早きゃいいっていうもんでもないですよね。早い中の労力みたいなものがあるんで。シンプルな絵の人がすごい簡単に描いているかというと、そういうことでもなかったりして。線を緻密に描いてたりしますもんね。
師岡:ヘタウマの元祖の湯村輝彦さんも何十枚か出す。ぺらっと描いて終わりってわけじゃない。
白根:その説得の裏づけの仕方は人それぞれだと思う。作家ごとの作戦みたいなのがあると思います。
水野:イラストレーションの仕事は苦手だから、僕はすごく調べちゃう。ネットで調べている時間が全作業の8割くらいです。
尊敬する人はだれ?
齋藤:次の質問です。尊敬する人は誰ですか?
水野:ここにいる人たちは全員尊敬してますよ。
白根:同い年でキャリアが長いと、それだけで認めちゃうみたいなとこありませんか? 同じ時間生きてこれだけ絵描いてきたんだなと、敬う対象。そもそも現役で仕事してる同業者は敬っておいた方がいいかなと。
師岡:僕はゆでたまご先生ですね。まず最初に真似したのは『キン肉マン』だから。
白根:ゆでたまご先生から真似していいって言われたんだっけ?
師岡:んー、うっすら(笑)。でも、あんまり調子に乗ると怒られる。
長嶋:ゆでたまご先生が剛力彩芽を描いたのが、逆に師岡くんに似てきちゃったのが、すごい現象だなって思っていました。
師岡:僕が最初に『ジャンプ』読み出したのが小3くらいで、まだ劇画が残っていて気持ち悪かったんです。エロ本みたいで。『アラレちゃん』とか『キン肉マン』とかは、スルッとしていて描きやすいじゃないですか。これは自分たちの絵だと思って、真似をはじめた。
水野:師岡くんは、絵柄的にも漫画家に対する尊敬がすごいよね。
師岡:それはめちゃめちゃありますね。
白根:子供の時に、いちばん意識する身近な絵って漫画じゃないですか。必ず一度は漫画家に憧れるっていうのは絶対みんなあると思うんですよ。
齋藤:「イラストレーターになりたい」って小学生、いるんですかね。
白根:今はいるんじゃないですか?
長嶋:イラストレーターという職業の幅が広がっていると思う。漫画系、pixiv系、ラノベ系も含めて。
齋藤:師岡さんは、もともと漫画家に憧れていたんですよね。
白根:小6くらいのとき『ジャンプ』について、アンケート主義だとか、編集がダメ出ししてくるとか余計な情報が耳に入っちゃって。漫画って大変そうだなって思ってた。それでも漫画好きな人は、たぶん漫画家になるんでしょうけど。
水野:アニメーターっていう選択肢もあったんですけど、やっぱりアニメーターはすごいから、絶対なれないと思ってた。
師岡:いちばん上手いのがアニメーターだよね。
水野:アニメーターは他人の絵が描けないといけないからね。原作がある場合は、キャラクターデザイナーが原作の絵に似せてアニメ用に描いて、それをアニメーターはそっくりに描けないとダメなわけじゃないですか。
師岡:手塚治虫先生が、「僕は下手だからアニメーターになれない」って言ってた。
水野:日本のアニメを作ったのは手塚先生だけどね。
イラストと絵画の違いとは
齋藤:次は定番の質問です。イラストレーションと絵画の違いって何ですか?
白根:「イラストレーション」って言葉自体が、間違って認識されちゃってるんです。イラストレーションって「配置するもの」、素材なんですよ。写真とか、絵とか、デザイン以外の部分があって、それが本の表紙になったり、CDジャケットになったりするわけじゃないですか。要するに、流通しているものに掲載されている状態がイラストレーションなんです。現代美術の人が本の表紙のために描いても、その絵も実は用語としてはイラストレーション。
長嶋:難しいのは、多くの人がちょっとゆるく描いた絵を”イラスト”って呼ぶようになったこと。それをいちいち違うんだよって正すのもめんどくさいくらいになっちゃってる。だけど、こういう状態がイラストレーションなんだよって言っていかないと、みんなもやもやしたまま飲み屋でアートの話しだして、ケンカするみたいな感じになっちゃう。
齋藤:絵画のほうは、発表するフォーマットを作家が決められるってことでしょうか。
白根:でもギャラリーのコミッションワークとか、ギャラリーやコレクターが発注していることもありますからね。
長嶋:ゆるい絵を”イラスト”と言っているけど、その絵柄を“アート”として出すこともできるわけです。同じ絵柄でも、作り手の意識によってイラストレーションだったり“アート”だったりする。
師岡:オーダーに従うことができるかどうかだと思う。どうしても従えない人は、仕事以外で描けばいいんじゃない?
白根:だからイラストの展覧会って言葉自体がおかしいんだよね。だって、オリジナルの絵が飾ってあるんだから。「イラストをpixivにアップしました」みたいな言葉もおかしいんですよ。仕事した状態がイラストレーションなんだからね。
だけど現代美術の人がイラストレーションをやると、絵の価値が下がっちゃったりすることもあって難しいから、”ビジュアルワーク”とか、かっこいい呼び方になるわけです。そういうマジックはちょっとあると思う。
水野:分かる。「アートワーク:水野健一郎」。
長嶋:アートワークをやる人を「アートワーカー」ってしちゃうとすごい労働者っぽいよね。急にブルーカラーっぽくなる(笑)
齋藤:どんなふうに絵の技術を磨いているのか知りたいです。
白根:逆に「磨かない」ってことかな。上手くなればいいってもんじゃないと思ってます。
水野:僕は磨かないという意識はないけど、怠け者だからあんまりやらないんですよ。上手くなる技術を身につけないで、ちょうどいい具合に下手っていうか。
白根:上手いからそれが言える。
齋藤:絵の上手い、下手はどこで判断するんですか?
白根:描かない人が感心する絵と、描く人が感心する絵って多分微妙に違うんだとおもいます。一般の人からウケる絵が良い絵という考え方もあります。それを受けて今どんな絵があるのかみたいなことをまずきちんと理解した上で、わざとずらしたものを出してそれが評判になることもあります。上手い下手の話じゃなくなっちゃってますが。
師岡:僕は、絵を描いてるよりも”見出し”を作りたいと思って。
齋藤:見出し?
師岡:多少、事件を起こしたい。アントニオ猪木の教えなんですけど、猪木は「プロレスそのものよりも、スポーツ紙の見出しにいかにでかく扱われるかが大事だ」って言ってるんですよ。そういう意味で話題になればいいなって。
水野:僕から見ると、白根さんと師岡くんは相当な仕事量じゃないですか。仕事をこなしていく上で、自然と腕が磨かれていくみたいなのってありますよね。
白根:描きながら絵が上手くなる。お金もらって練習しているっていうのはあります。僕は最初、人間が描けなかったんですけど、人間描けないと仕事にならないと思って、仕事の中で練習していきました。
水野:仕事って、今までやってなかったことやらされたりして、開けてなかった扉を少し開けてくれるようなところがありますね。
齋藤:仕事という実践が鍛錬になるのは面白いですね。でもただ量を増やせばいいということでもないんですよね。
師岡:ほどほどに。そうじゃないと飽きちゃうんだよね。
白根:水野くんだっけ? 最近なんか上手い絵のことつぶやいてなかった?
水野:やたらうまい絵ってあるんじゃないですか、ドヤ顔をしている絵。そういう絵に対して、すごい嫌悪感を覚えるんですよ。僕のコンプレックス、劣等感から来てるものなのか、やたら考えちゃうんですけど。
師岡:僕は水野くんに対してそう思ってるよ。
白根:水野くんの絵は、すごいわかりにくいところでドヤ顔をしている絵だよね。
展覧会はどうやって開催するの?
齋藤:それでは「展覧会というものはどうやったら開催できるのか」?
この質問はまず、よく個展をやってるゆたんぽさんに。そもそも自分で企画を持ち込むのではなく、ギャラリーやキュレーターから声をかけられるんですよね。
白根:展覧会をいろいろ見て、出てきたアイデアでやるのがいいんじゃないかと僕は思います。自分なりの展覧会をやりたいっていっても、展覧会自体がどういうものかわからないと何をやっていいかわからないと思うし。
齋藤:師岡さんはどうやって開催したんですか?
師岡:好きな人から「やって」って言われるかどうか。
白根:師岡くんは本当にやらないんだよね。
師岡:嫌いなんです。
齋藤:俺の絵を見ろ、みたいな気持ちにならないんですか。
師岡:全然ない。隠れてやると楽しいでしょう? 発注されるとあんまり楽しくない。
白根:僕も展覧会は受注でやってるから、展覧会も基本、仕事なんですよね。
水野:僕も全部企画展でやってて、仕事だと思ってやってる。展覧会やるたびに、作品が完売するくらいになればいいなって。そうすればある程度成功じゃないかと。
長嶋:展覧会やるんだったら見せて終わりじゃなくて、ちゃんと売るってことまで考えてやりたい。
白根:やっぱり企画した人は、ギャラリーを運営するために絵が売れなきゃいけない。貸画廊で使用料で補えばいいってケースもあるんですけどね。
水野:企画展のギャラリーは売らないといけないから、真剣に売ってくれるんですよ。でもある意味、そこで束縛される人もいる。こういう絵を描いてみたいなことを言われて、それに縛られちゃう。
白根:縛られてるわけじゃないけど、一応どんな展覧会をやりたいか聞きますよ。それを聞いて、だいたい何を描けばいいかって考える。
長嶋:現代美術だって、ギャラリーの色がはっきりしてると縛られますよね。
白根:コレクターさんの嗜好とかね。
水野:となると、不自由さもイラストレーターとあんまり変わらないんじゃないかと思うんです。
白根:ただ、売れると楽しいですよ。ギャラリーも盛り上がるし。売れないとムードが悪くなる。
普段使っているツールについて
齋藤:普段使っているツールを教えてください。
白根:Adobeさんです。Photoshopがメインでillustratorとかも。iPadで絵も描いたりしてますよ。
師岡:みんなAdobeですよ。ほかの使ったら、人に使い方を聞けないし。
齋藤:描くときはアナログでスキャンして色調整する人もいますし、そもそもペンタブなどで描かれる方もいらっしゃいますよね。
白根:僕はコピー用紙に筆ペンで描いて、スキャンして、Photoshopですごい成形します。
齋藤:師岡さんは?
師岡:僕はなんにも決めないで、手で描いたり、パソコン上で描いたりしますよ。なんでもアリです。いろいろ違う絵が描けるから、積極的に試します。
齋藤:色をつけるのも?
師岡:決めてないですね。全部、最後にPhotoshopでまとめたりします。
長嶋:僕は画用紙に手描きで描いて、水彩で塗って、スキャンです。未だにIllustrator10.7を使ってますし。
水野:僕は映像を作るんで、コピー用紙に鉛筆で描いてPhotoshopでアニメみたいな感じで色をつけて、それを繋げて映像にしたりしています。かっちりとした線を描きたいときはIllustratorを使います。楕円が苦手なので、Illustratorで描いて、それをなぞってみたり。Illustratorでパースを作れるので、それを元にやってみようかなって思ってる。
「作家性」はどう作るか?
齋藤:次は、誰もが悩む「作家性ってどうやって作るもの」?
白根:仕事の積み重ねの結果でしかないよね。みんなの認識で「こういう絵描く人ね」って。
長嶋:最初に決めちゃわなきゃいけないのかな。
白根:僕とか水野くんのデビュー当時、それこそ80年代ってキャラクターものとかが出てきた頃で「キャラクタービジネスが大事だから、キャラクターを作った方がいい」と、結構まわりの人に言われたりもしましたがなんかピンとこなかったですね。
水野:絵を見せに行くと、「画風を一個に決めなきゃだめだよ」みたいなことも言われたな。
白根:そういうことを言う人はだいたいイラストレーターじゃないんですよ、他の業種の人だったりする。
師岡:20代後半とかすごく”自由自由”って言ってましたけど、今は超不自由です。
白根:それは自分の作家性ができてるんだよ。
長嶋:師岡くんの”作家性をなくす作家性”っていうのは、初めての試みなんじゃないかな。
師岡:お客さんが楽しめればいい。そのためにはすごくがんばりますよ。
白根:どこがお客さんなんだろう? イラストレーターだと、最初のお客さんってデザイナーさんだったり、ADだったり、発注する人ですよね。
師岡:そう、まずは発注する人をびっくりさせたい。
白根:流通の向こうまで行ってそれを手にとる人のことは?
師岡:全然考えてない。ただ、Twitterとかでものすごく反応がよくて、こんなに分かりやすいことしないと反応してくれないんだみたいなことは、5年前から気づいたかな。
齋藤:わかりやすさの尺度ですね。
水野:僕は意識するのは友達かな。友達に向けて絵を描いてるみたいな。師岡くんとかゆたんぽさんが面白いって言ってくれなきゃ失敗みたいなところあるもんね。やっぱり絵を描いている友だちがいいねって言ってくれるとうれしい。
齋藤:うれしい仕事って、どんな仕事なんですか?
白根:みんなうれしいですよ。
長嶋:例えばプロレスラーとかって、自分から作品として描こうとは思わないんですよ。だから仕事で頼まれて、大々的に描けるのがすごくうれしい。
白根:中学生の自分に自慢できる仕事とかたまにあるじゃん。そういうのが来るとうれしい。
師岡:音楽とか漫画とか、自分が感情をもらったものは、ちょっとがんばろうかな、というか断れない。
水野:僕はね、「自由にやって」って言われると、ものすごくウキウキする。だって作風どれでもいいわけでしょ。そこからどれでやろうかなとか。時間がなくなったときはラフな絵でもいいわけだよね、自由だから。
白根:発注側の器や想像力も関係しますよね。自由にやってくれって言われて自由にやると、「いつもの白根さんらしくない」みたいなことを言われたりもする。
水野:がっかりされるときもあるよね。「アニメのセル画みたいなタッチでやってほしかったなあ」って。
白根:それは先に言って~!(笑)
齋藤:難しいですね。仕事と作家性は。キャラクターデザインはどうやってやるんですか? どういう依頼が来て、どういうやり取りを経て、出来上がるのか。
白根:注文受けて、梱包から発送まで自分でやってるんですよ。そうすると、真面目に仕事してるなと思う。それが楽しいです。
齋藤:何かグッズなとかの企画をやろうってときは、自分で決めて自分でやるんですか?
白根:そう。ちゃんと収入になるので。ギャランティー安くて大変な仕事引き受けるよりも自分で考えたものを販売して同じ金額を稼いだ方が楽しいというのは正直あります。
齋藤:師岡さんは?
師岡:僕は人を巻き込んでやるほうが好きですね。本当はもっとやんなきゃいけないんだけど、自分ひとりだとなんかね。
白根:向き、不向きだよね。
師岡:向いてないです。人とやりたい。
白根:師岡くんはデザインセンスというか、グラフィックセンスがあるから、グッズとか向いてるよね。
師岡:そうか。やります!(笑)
絵描きの仕事に求められる本当の「力」とは
齋藤:最後の質問です。絵を描くときに画力が必要なのは当然として、本当はフィジカルな体力が求められるってことがあるのかなと思うんですけど。
白根:画力なくても売れる人もいるし、画力あっても売れない人もいるし。色々ですよね。
水野:こないだ打ち合せしたときに、絵を描くのに体力使うってことに齋藤さんはびっくりしてた。「こうやって机の上で描くだけじゃないですか」って。
師岡:びっくりしてたことに、びっくりした。
白根:齋藤さんも仕事でテキスト打ってても疲れるじゃない? それと一緒で、僕らだってパソコン使ったりしてるんだから疲れますよ。
齋藤:精神力はわかるんですけど、絵描きさんの体力は考えたことがなかったです。フィジカルなものなんですよね。
師岡:お酒飲めるから仕事増えた、みたいなのありませんか?
長嶋:君の場合はね。僕はあんまりない。
白根:僕はマイナスしかないような。
水野:僕もやっぱりお酒のおかげかな。
師岡:あんまり心開きたくないから絵描いてるのに、お酒飲まないとしゃべれないもん。
長嶋:そういえばこの4人、酒の席以外で会ったことないね…。
齋藤:編集さんとかデザイナーさんとのコミュニケーション、心開いて打ち解けられるみたいなところで、お酒の付き合いがあるんですか?
師岡:めちゃめちゃあるでしょ。
白根:みんながコミュニケーション力必要かっていうとそうじゃなくて、無口でも絵がちゃんと回ってる人もいますもんね。それぞれやりやすいところでやればいいと思います。
齋藤:このメンバーが集まると、何時間もずーっと絵の話をしているから、本当にスゴイと思うんですよ。みなさん本当に真摯に、ずっと絵のことを考えている。それが作家として活動しつづけられる秘密なのかもしれません。今日はありがとうございました。
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