「SUMMER SONIC」をアートの力で盛り上げる!「SONICART」が今年も熱い


日本最大級の音楽フェスとして知られ、今年で20周年を迎える夏の風物詩「SUMMER SONIC」。実は、音楽のみならずさまざまなアートが溢れるイベントだということをご存知だろうか。

「SUMMER SONIC」内で実施されるアートイベント「SONICART in SUMMER SONIC 2019」(以下「SONICART(ソニッカート)」)は、2005年からスタートし今年で15回目の節目を迎えた。ライブペインティングをはじめ、ボディペイント、パフォーマンスに至るまで幅広い試みを実施し、音楽を楽しむ人たちにアートの魅力を毎年届けている。

「SONICART」の目玉と言えば、幅5.4m×高さ1.8mのキャンバスやフォトスポットを使ったライブペインティングだろう。今年は水野健一郎さん、早川世詩男さん、よシまるシンさん、Hiraparr Wilsonさん、山崎若菜さん、抜水摩耶さんらアーティストやイラストレーターが参加。アドバイザーを務める水野さんが、「全体のバランス」を意識して声かけをし、制作過程や画風も異なる個性豊かな面々が揃った。

制作期間となった3日間が終わったあと、一体どのような作品が出来上がったのか。制作中の実感や作品にこめた思いとともに紹介する。
 

■水野健一郎さん

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今年で8回目の参加となる水野健一郎さんにとって、SONICARTは「実験の場」だ。参加の度にやり方を変え、試行錯誤の結果、自分にとって新しいやり方が生まれることを毎年楽しみにしているという。今年は「普段作業している描き方を見せたい」と、初参加の際と同様に下絵を準備した。

また通常のライブペインティングで多いのは、色を塗ったあとにアウトラインを描いていく方法だが、水野さんは「鉛筆で描いた時のストロークや、その時の力の入れ具合を大事にしていて、それをそのまま大きな絵に再現したかった」と語る。そのため、アウトラインから描き始めることで線の強弱や揺らぎを残し、それを損なわないよう丁寧にマスキングしたあと、色を塗るという行程で進めた。

水野さんは、こうも話す。「初参加の時の絵は、ある物語につながっていきました。僕は普段、設定資料集やアニメーションを作ったりと物語を考えています。だから今回も物語につなげようかなと思っていて、描きながら物語を考えるという初の試みをしています」。1枚の絵からどんな物語が生まれるのか。「SONICART」の後も物語は続いていく。
 

■早川世詩男さん

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昨年に続き、今年で2回目の参加となるイラストレーターの早川世詩男さん。普段は装画をはじめとしたイラストレーションの仕事が中心のため、大きな絵を描くこと自体が新鮮な体験だ。「僕はアーティストではないから、自分で作品を描いて発表するタイプではなくて。やっぱり依頼があって描くことが多いので、テーマがあったほうが描きやすいんです」。そう話す早川さんが描いたのは、青空の下で歌うロックバンド。「SUMMER SONIC」に相応しく、熱く爽やかで迫力のあるシーンだった。

「いつも自分の描いているものの巨大版を描きたいんですけど、なかなか思ったとおりにはならないですね」。本人は控えめにそう語るが、明るく躍動感のある作品の前では多くの人が足を止め、写真を撮る姿が目立っていた。
 

■よシまるシンさん

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初参加となるよシまるシンさんが完成させたのは、なんと3D作品だ。普段はデジタルで作画するよシまるさんにとって、ライブペインティングは「初めてに近い」経験。完成イメージも用意していたが、2日目の中盤まではなかなかペースを掴めず「思ったとおり出来ていない」状態が続いていた。

「本当はこれ(完成図)をそのまま再現したかったんですけど時間的に無理そうなので、残りの時間で出来ることをこれからやろうと思います。観ている人が、最後に『えっ、そうなるんだ!』ってなったらいいなと。グリッドや空間、時間も活かして出来ることをやりたい」。

最初は焦りもあったというが、気づけば制作過程さえも楽しみながら、作品を時間内に完成させた。意図せずとも、作家の想像を超える作品が出来上がることこそ、“ライブ感”の醍醐味なのかもしれない。
 

■Hiraparr Wilsonさん

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多くのミュージシャンのアートワークなどを手がけるHiraparr Wilsonさんも、今回が初参加。Hiraparrさんは今年参加したアーティストのなかで唯一、下描きを用意せず即興で作品を描き上げた。

「初めの段階ではノープラン。たださすがに地図がないと道に迷っちゃうなと思って、初日の夜に、少しだけ(モチーフの)メモをしました。だけど、まあ参考程度に描いていこうかなという感じです」。その言葉どおり、初日はピンク色に塗られたキャンバスに、2日目以降はさまざまなモチーフがレイヤーのように重ねられていく。

Hiraparrさんの制作はイメージを固めきることなく、あくまでも柔軟さを忘れないスタイル。その姿勢によって「どんどん絵が変わっていく」ように描かれた作品は、制作中にも観客を大いに楽しませていた。
 

■山崎若菜さん

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同じく初参加となる、イラストレーターの山崎若菜さん。山崎さんが描いたモチーフは、今年ソフビフィギュアとしても展開されるという“ドラゴン”と“魔法使い”だ。さらに「キャンバスが横長なので、それを意識して左から右に流れる視線誘導になるように考えました。(会場には)若い方が多いのでインスタ映えするように、普段よりあまり描きこまないようにして、色もぱきっとさせています」と、“構図”や“映え”も意識した。

制作については、スタッフと役割分担しながらの分業制で臨む。「普段の制作は孤独で1人の戦いなんですけど、今回はお手伝いのスタッフの方と、わいわい作業出来るのでチーム感が楽しい」と、笑顔で話す山崎さん。ライブペインティングはもちろん、同時に販売していたグッズにも、女性を中心に「かわいい!」という声が何度も聞かれていたのが印象的だった。
 

■抜水摩耶さん

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飯田淳さんが審査した第144回のザ・チョイス入選歴もある抜水摩耶さん。彼女が今回担当するのは「SUMMER SONIC」でもお馴染みとなったフォトブース用の看板、そしてその後ろにそびえる巨大なキャンバスだ。

「サマソニに来て好きなアーティストを見たい! といったような、フェスを楽しんでいる人たちの目線や喜びといった感情に着目しました」。抜水さんはこう話し、アーティストを前にした際に生まれる驚きや感動などを、目のモチーフを象徴的に使いながら堂々と描ききった。

制作は2日間(今年の「SUMMER SONIC」は3日間開催されるが抜水さんは2日間の参加)というタイトなものだったが、初日の作業でほぼフォトブースは完成し、2日目以降は完成した抜水さんのフォトブースの前で撮影された写真がSNSに数多くアップされた。


「SONICART」ではライブペインティングのほか、過去作品のアーカイブ展示、美術系の学生ボランティアスタッフによるボディペイント、会場デコレーションなども制作。ライブ以外の時間も長いSUMMER SONICを、アートの力で大いに盛り上げた。