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イラストレーターと著作権

著作物の利用許諾について注意すべきこと|【Web連載】イラストレーターと著作権 第3回

【Web連載】イラストレーターと著作権 第3回

本連載は、イラストレーターやイラストレーターといっしょに仕事をする方々のために、著作権の基礎知識から運用上の注意点まで、主にQ&A方式でわかりやすく解説していきます。

一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)編
アドバイザー:大川宏/亀岡知子(総合法律事務所あおぞら)
イラストレーション:中村 隆


著作物の利用許諾について注意すべきこと

Q:「包括的な利用許諾」は宣伝・告知目的のほかに、実際どの範囲にまで及ぶのでしょうか。

A:「包括的」という意味が字義どおりであるかがまず問題でしょう。

「包括的」が字義どおりの意味であれば、範囲に制限がないことになり、作品の価値を毀損しない限りはいかなる目的のためにでも利用できることになります。また、目的に限らず、利用方法、期間、地域、媒体などにも制限がないことになります。学校案内のパンフレットに使う契約のつもりでいたのに、最寄駅の看板広告に使われていたとか、校舎の壁面全体に大きく引き延ばされて掲示されていたなどのトラブル例があります。

このようなトラブルを避けるためには、包括契約を避け、利用目的・方法・媒体・期間・地域などを特定し、「甲(依頼主)が本契約に定める利用範囲以外に本イラストレーションを使用する場合、あらかじめ乙(イラストレーター)と協議したうえで実施する」などの条項を設けておく必要があるでしょう。なお、著作権法では、著作権者が他人に許諾する場合を「利用許諾」(63条)、個人的・家庭内などで使用することを目的とする場合は「私的使用」(30条)として、「利用」と「使用」を区別しています。

 


Q:「包括的許諾」では、期限や範囲(地域・媒体)は設けないのが原則なのでしょうか。電子化で使用の範囲がエスカレートする懸念があり、一定の制約は設けたいのですが。

A:契約当事者間の話し合いで任意に設定が可能です。

「包括的」ということが無条件的にあるわけではなく、期間的、地域的、媒体などについてどのように決めるかは契約当事者の合意の問題です。契約の際に期間を限るとか、媒体を限定するといった交渉をすべきでしょう。


Q:「包括的な利用許諾」は著作者人格権の不行使とよくセットにされますが、違法性はないのでしょうか。
また、最低限守られるべき作者の権利は何ですか。

A:著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)のうち、「放棄可能」と解釈されるものと、「不行使契約」があっても権利行使が可能と解釈されるものがあります。

「包括的利用許諾契約」には、「乙(イラストレーター)は甲(出版社)に対し、著作者人格権を行使しないものとする」という条項が設けられているケースがあります。人格権はもっぱら個人に帰属する精神的利益で、他人に譲渡することはもちろん、他人が一方的にこれを奪うことはできません。それでは、個人が人格権を「放棄する」ことは許されるのでしょうか。許されるなら、「行使しない」という契約は有効になります。

著作者人格権には、「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3種があります。権利の内容によって分けて考える必要がありますが、放棄可能と解釈されるものとそうでないものがあると考えられます。さらに、著作者には「名誉・声望を害する方法で著作物を利用されない権利」(113条6項)があります。これが、最低限守られるべき作者の権利になります。

①「公表権」(18条1項) 作品を公表するか否か、またその方法や時期について決める権利です。未公表の著作物の著作権を譲渡した場合は、公表することに「同意した」(18条2項1号)ものとされています。利用許諾の場合、この条文の適用はありませんが、利用を許諾した以上は公表を容認していることになりますので、放棄は可能と考えます。

②「氏名表示権」(19条1項) 作品に氏名を表示するかどうかを作者が決めることができる権利ですが、「著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる」(19条3項)という規定があります。この規定から考えれば、氏名表示権についても放棄可能と考えられます。

③「同一性保持権」(20条1項)みだりに作品を改変されない権利です。例外的に、用字等の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるものなどは改変してもよいとされています(20条2項1号〜4号)。著作物の内容を変えるということは、作者の「思想」「感情」に介入することであり、変更が認められるのは作品の本質に触れない形式的な事項のみに限られています。同一性保持権の放棄は作者が自らの「思想」「感情」を放棄することですから、仮に契約に不行使を謳っていても、公序良俗に反するとして無効と解すべきでしょう。したがって、依頼主が作品の内容を無断で改変した場合、不行使特約があっても同一性保持権を行使することは可能と考えます。


Q:公表されたイラストレーションが著作権侵害に問われた場合、法律上の一義的な責任者は作者でしょうか使用者でしょうか。

A:一義的責任は作者にあります。

実際には、使用者に対してクレームが来て、使用者が損害賠償をすることが多いでしょうが、最終的には作者が使用者から求償されます。著作物利用契約では、以下のような条文を設けていることが通常です。

(表明および保証)第○条 甲は、自らが本契約に署名する期日現在および今後も以下の事項を表明し、保証するものである。
(1)甲は、本著作物の正当なる権利者であり、本著作物には、何らの担保その他の拘束も存在しないこと。
(2)甲は、本契約期間中、本著作物についての権利を保持すること。
(3)甲は、本契約を締結する正当なる権利を有するものであり、本契約中のいかなる条項も、またその実施も、種類の如何を問わず、甲が当事者となっている他の何らの契約にも抵触しないこと。


Q:依頼主の指示で有名人を描く場合、その許可を取るべきなのは依頼主でしょうか作者でしょうか。

A:通常は依頼主でしょう。

作家が有名人と親しいなどの事情がない限り、このような実務的な仕事は依頼主が担当すべきでしょう。ただし、許可を得ないで有名人の肖像を描いて問題になったときは、作者も損害賠償の対象になるでしょう。このような依頼があったときは、依頼主が許諾を得ているかどうか、必ず確認すべきです。


東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)Webサイト


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