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イラストレーターのお仕事帳

イラストレーターのお仕事帳 ~No.010 里見佳音さん~

イラストレーションファイルWebに掲載中の作家にフォーカスする連載を毎月お届け。クライアントワークにまつわる5つの質問をとおして、イラストレーターの仕事との向き合い方を紹介していきます。第10回でお話をうかがったのは、里見佳音さんです。

 

┃クライアントワークを受注するために普段していること

Instagramやホームページの更新ももちろんですが、最近は同じテイストの仕事が重なってきていて、作風が固定してしまうのではないかという危機感があり、パーソナルワークをとにかく作らなければという気持ちがあります。それが新しい仕事につながって、新しい分野でも活動できればいいなと考えて、最近は自分の作品づくりに力を入れています。

もともと仕事では「こういう依頼を受けたら依頼に合わせた絵を描こう」「依頼に沿った絵を描くのは楽しいな」という感覚がありましたが、自分自身の作品を作ってきた経験があまり多くなくて。「君自身が描きたいものは何か」と言われると答えられないというコンプレックスがあり、そこに向き合いたいと思っていました。友人の若いイラストレーターたちが積極的に個展をやっているのも羨ましくて、4月に初めて個展を開きました。

最初は自分が描きたいものが分からずすごく苦労しましたが、描いてみると少しずつ見えてきて。会場で来場者の方々に褒めていただいたことが自分にとってとても大きなできごとでした。

それ以来、受けた仕事への向き合い方も変わってきました。いままではオーダーに100パーセント向き合うという意識でしたが、その中に自分にしか描けないもの、自分が描きたいもののエッセンスを入れるようになってきています。個展をとおして「いままで見えていなかった景色が見えてきた」という実感があって、いまがまさに過渡期だと感じています。

2026年4月に開催された里見さんの個展「ROUTE」のDM

  

┃印象的だったお仕事

直接ファイルWeb経由で依頼あったわけではないのですが、『イラストレーションファイル2026』に掲載した、マッケンジーハウスという会社のウェブ用ビジュアルの依頼が印象に残っています。

何がよかったかというと、自分自身がしっかり絵を描けたという実感がとても強かったことと、デザイナーさんとクライアントさんとイラストレーターが1つのチームになって仕事を進められたからです。

この仕事は、デザイナーの方が私を見つけて依頼をしてくれました。マッケンジーハウスは、「明るい地域の街を作っていく」ことを大切にしている住宅・不動産会社で、「街を作っていくというコンセプトに里見さんの明るい絵がぴったりだ」と声をかけていただきました。私の他のいろんな絵も見てくださって、作風なども理解したうえで依頼していただいたことがうれしかったです。

この案件は、クライアントとデザイナーが何度か食事に行くくらいしっかりした付き合いがあり、私もそれに参加させてもらうような関係性の中でのお仕事でした。そのためお互いの信頼度が高く、どう描いたらいいか迷わずに取り組むことができました。ちょうど個展の準備期間とも重なっていたので、自分の描きたいエッセンスも入れることができて、「ああ、これはいいぞ」という手応えがありました。

 

依頼内容は「湘南の街をベースにしつつ、厳密さよりもなるべく里見さんの世界が生きるような街を描いてほしい」というものでした。湘南らしい風景を描いたバージョンからだんだん架空の街に寄せていくようなラフを、アングル変えて5パターンほど描きました。最終的に仕上げた絵は、白を残した描き方がポイントです。

(マッケンジーハウス)コーポレートサイト用ウェブイラストレーション/2025年/制作:PARK Inc.

 

私はイラストレーターになる前に広告代理店で働いていたのですが、そこでクライアントと代理店と制作チームが1つのチームになるのがいい仕事なんだということをいろんな人に教わってきました。でもイラストレーターになってからは、チームとしての仕事になるような機会はそこまで多くありません。だからこそ、この仕事で「下請け」という扱いではなく、それぞれの役割を尊重して接してもらえたことがうれしかったです。チームになっていると意見も出しやすいし、修正もみんなが同じビジョンを見ているから納得して受け入れられる。それが結果的にいいものにつながるということを、この仕事で改めて実感しました。

 

┃クライアントワークの際に心がけていること

代理店に入った時に、「君たちが作ったものなんか誰も見ない」と言われたことが活きていて、「どうやったら振り向いてもらえるか」「見てもらうために何をするか」を常に考えるようになりました。毎日何百、何千という情報が飛び込んでくる人たちにとって、ちらっと目に留まる画面とは何なのか。クリエイティブに関心のない人も含めた、見る側の視点を持つようにしています。

それをふまえたうえで、相手の望んでいる大事な部分の抽出と、自分の「こうした方がよくなる」というところをプラスすることを大事にしています。先方から「こういう感じに」というラフが上がってくることもありますが、そのまま言われたとおりに描くのではなく、一度必ず自分のフィルターをとおして「こうした方がいいですよ」というところを加えるようにしています。

お互いのイメージがしっかり固まっていれば1案だけで見せることもありますが、だいたい最初は2、3案をお見せして方向性を確認してから、簡易的なデジタルのカラーラフを作り、方向性が完全にフィックスした後に仕上げを描いています。

 

┃使用している制作ツール

デジタルで描くこともありますが、基本は手描きでコピックを使用して描いています。まず鉛筆やシャーペンでノートに小さくラフを描いて、スキャンして引き延ばし清書するという作業を繰り返します。そうやって拡大したものを、ライトテーブルで紙に映しながらコピックと色鉛筆で着彩します。コピックのトーンはスキャンするとムラが目立ったり色が飛んだりして、スキャンした画像そのままでは原画の状態を再現できないので、フォトショップで細かい調整をする、といった手順です。

はじめから大きく描くのは難しいので、まず小さく描いてだんだん大きくしていく工程があります。なんだかんだ最初の線はかなり正解に近いラインを引けていることが多いですが、いつもこういった感じで制作しています。

普段ラフを描いているノート

 

┃今後してみたいお仕事

広告や企業案件の仕事がほとんどでしたが、これからは書籍や絵本、パッケージや音楽関係の仕事もしてみたいです。特に書籍の表紙への気持ちがとても強くあります。

イラストレーターを始めた頃は「稼がなければ」という意識が強かったのですが、最近は個展を開催した影響もあり、単純に「いい絵を描きたい」という気持ちが強くなってきました。書籍や絵本の仕事にはそういう意識が必要だと感じていて、ぜひその分野にチャレンジしてみたいと考えています。

  

イラストレーターとして絵との向き合い方が変わってきているので、これからどんな依頼がきてどんな絵を描いていけるのか楽しみです。いま、AIが普及する流れの中で、どうしてその人に描いてもらうかという理由がある方が活躍するのかなと思っています。だから自分にしか描けない絵をもっと追求していきたいです。

 

 


里見佳音(SATOMI Kaoto)

イラストレーター。主にコピック・水彩・色鉛筆を使用した、細かいイラストレーションが得意。デザイン制作やアニメーションの案件も多数担当している。

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