著作権と契約のキホン
改めて知る・考える「著作権と契約のキホン」【第3回】契約のキホン
なんとなくは知っていても、やはり難解なイメージが強い「著作権」や「契約」。本連載では、改めてその基本を知ることで、イラストレーター、そして発注者であるデザイナーやクライアントのよりよい関係性、仕事の進め方について考えます。
契約のキホン
契約は仕事に関する諸条件を明確にし、問題が起こらないようにするためのものです。ただ、イラストレーションの仕事において契約書は簡略化されることも多く、原則当事者の合意のみで成立するため、オオスキトモコさんが作成している確認書(*1/第4回・参照)やメールなどの文書による合意の記録があれば契約成立と見なされ、法的な効力を発揮します。
そのため、電話やオンラインミーティングなど口頭で確認をした場合には、音声データを保存する、その後メールなどの文書にて改めて確認することをオススメします。
(*1)確認書……確認書のPDFファイルや合意内容をメールでやり取りする場合、クラウドサインなどの電子契約サービスを利用した契約の場合には不要ですが、書面で契約締結する場合には印紙税がかかることがあります。
どんなにイラストレーターに不利益な契約でもひとたび合意してしまうと、その後撤回することは難しいため、違和感や疑問がある場合には早めに明らかにし、判断が難しい時には弁護士や公的機関など著作権に詳しい第三者に相談してください(第12回・参照)。
また、発注者側も下記のような行為にはくれぐれも注意が必要です。業界や地域の慣例によって容認されているものもあるかもしれませんが、トラブルの原因となりますので、イラストレーターと重々相談の上、決定することが望まれます。
1. ギャランティに関して
金額を明示しない、低価格での一方的な報酬決定、契約後・納品後の減額、支払いの遅延など。
2. 著作権に関して
著作権譲渡を強要する、著作者人格権放棄の依頼、一方的な秘密保持の強要など。
3. 成果物(イラストレーション)に関して
不当で過度な修正の強要、一方的な発注キャンセル・受け取り拒否、契約範囲・期間外の使用、制作者の意に反する勝手な作品改変など。
上記を踏まえた上で、イラストレーターの方々の仕事に関連してよく話題となる「著作者人格権の不行使」契約について、オオスキさんの考えを聞きました。
ワンポイントアドバイス☝️ 「著作者人格権の不行使」って本当に必要?
発注者からすると、譲渡出来ない著作者人格権(*2)は厄介なものだと感じるかもしれません。実際その気持ちに沿って考えられた「著作者人格権の不行使」という契約手法があります。しかし、著作権譲渡や著作者人格権の不行使特約でなく、著作物利用許諾契約書や確認書への追記だけでなんとかなるのでは、というのが私の考えです。
考え方は人それぞれですが、私はデザイン上必要な範囲での色の変更や改変については承諾していますし(この点において同一性保持権の主張をしていません)、ほかの点で何か問題があれば、確認を取ればいいことでは? と考えています。「著作者人格権の不行使特約を結ばないと、イラストレーターの名前を表示する位置をクライアントが決定出来ない」などという誤解もあるようですが、これも話し合いで済む問題でしょう。[オオスキトモコ]
*2 著作者人格権……①公表権(自分の著作物を公表するかどうか、公表の際にはその方法を決める権利)、②氏名表示権(著作物公表の際に著作者名の表示方法を決定する権利)、③同一性保持権(著作物の内容や題号を勝手に改変されないようにする権利)、④名誉声望保持権(著作者の名誉や声望を害する方法により著作物を利用することを禁止出来る権利)の4つの権利。
(第4回に続く)
執筆・編集:イラストレーション編集部
企画・編集協力・イラストレーション:オオスキトモコ
監修:弁護士 大川宏(総合法律事務所あおぞら)
図版デザイン:尾崎行欧+宗藤朱音(尾崎行欧デザイン事務所)
*イラストレーターの仕事を主眼として、弁護士の監修、参考資料、これまでの事例などに基付き一般的と思われる法解釈によって構成していますが、本情報の運用結果については玄光社及び関係者共にいかなる責任も負いかねます。
*本特集は『イラストレーション』No.236掲載記事を再構成し、2024年6月24日にウェブ公開したものです。
【プロフィール】
オオスキトモコ
イラストレーター。2010年から『イラストレーションファイル』毎年掲載。仕事をする中でさまざまなトラブルに遭遇したことから、下請法や著作権法など法律の勉強を始める。2021年に国家資格「三級知的財産管理技能士」、2024年に「ビジネス著作権検定上級」合格。
大川宏(総合法律事務所あおぞら)
弁護士。得意分野は民事事件、イラストレーターの著作権関連など。『Q&Aでわかる!イラストレーターのビジネス知識』(玄光社)監修。教育機関で著作権の講義なども行っている。
【特集参考文献一覧】
ウェブサイト
● 公正取引委員会
● 公正取引委員会
「下請代金支払遅延等防止法ガイドブック コンテンツ取引と下請法」
● 公正取引委員会
● 特許庁
●厚生労働省 ※策定:内閣官房+公正取引委員会+中小企業庁+厚生労働省
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン【概要版】」
● 公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)
● 一般社団法人日本モデルエージェンシー協会(J.M.A.A)「出演と契約に関するガイドライン」
オンラインセミナー
●日本イラストレーション協会(JILLA)
講師:弁護士 桑野雄一郎(高樹町法律事務所)
書籍・雑誌
●『illustration』No.168特集「イラストレーターのためのお仕事マナーQ&A 文書確認編」
大川宏 監修協力(玄光社)
●『プロとして知りたいこと全部。イラストレーターの仕事がわかる本』
グラフィック社編集部+竹永絵里 編(グラフィック社)
share