著作権と契約のキホン
改めて知る・考える「著作権と契約のキホン」【第6回】著作権と契約にまつわるQ&A② 「独占禁止法」「下請法」「フリーランス新法」「労働法」って何?

なんとなくは知っていても、やはり難解なイメージが強い「著作権」や「契約」。本連載では、改めてその基本を知ることで、イラストレーター、そして発注者であるデザイナーやクライアントのよりよい関係性、仕事の進め方について考えます。
第5回からは、知っておいた方がよい事柄、また仕事をする中でイラストレーターの方々 が遭遇する可能性の高い具体的なトラブル、その対策などについて、Q&A形式でお答えします。
「独占禁止法」「下請法」「フリーランス新法」「労働法」って何?
まず、法律上フリーランスや個人事業主が事業者と取引する際には、そのすべてに「独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)」が適用されます。「独占禁止法」の目的は公正かつ自由な競合を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動出来るようにすることで、具体的には私的独占(排除型私的独占・支配型私的独占)、不当な取引制限、カルテル(*)、入札談合など、主に優越的な地位を濫用した不公正な取引行為を公正取引委員会が規制しています。
独占禁止法の補完法として、「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」があり、こちらはフリーランスと資本金1,000万円超の法人事業者が取引する際に適用されます。
下請法が適用される取引では資本金1,000万円超の法人事業者が「親事業者」、フリーランス側が「下請事業者」となり、親事業者に書面の交付義務、支払期日を定める義務などの4つの義務と禁止事項が課されます。
親事業者の禁止行為としては、①取引条件を明確にした書面交付の拒否、②一方的な発注取り消し、③制作したイラストレーションの受領拒否、④ギャランティの支払い遅延、⑤理由のないギャランティの減額、不当な変更や修正などがあります。
2024年11月1日から、「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が施行される予定となっています。フリーランス新法は、「従業員を使用している発注事業者とフリーランス」の間の「業務委託」の取引を適用範囲とするもので、下請法より適用の範囲が広がります。イラストレーターの仕事で考えると、代表者+従業員が合わせて2人以上の事業者・会社であれば、小規模なデザイン事務所や制作会社との取引も対象となります。
フリーランス新法の施行後は、発注事業者に対して、下請法における「親事業者」とほぼ同じ「書面等による取引条件の明示」などの義務や、禁止事項が課せられます(第4回・掲載の確認書見本は、下請法・フリーランス新法いずれにも対応した書面となっています)。
独占禁止法・下請法・フリーランス新法のいずれにも違反する行為があった場合、基本的に下請法や独占禁止法よりも優先してフリーランス新法が適用されます(公取委の判断によって、下請法が適用となることもあるようです)。フリーランス新法に関する詳しい情報は、公正取引委員会のウェブサイト内「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」をご覧ください。
ただ、いずれの法律も発注側事業者に対する注意喚起にはなるものの、ギャランティの支払い遅延など眼前の問題を直接的に解決出来るものではありません。とはいえ、公正取引委員会の調査が入ることで改善に向かうなど、長期的に考えれば有効な手段と言えるでしょう。
最後に、「労働法」は労働基準法や労働組合法、男女雇用機会均等法、最低賃金法など労働に関する法律のことです。これらは従業員の保護を目的とした法制度のため、原則「雇用」という働き方ではない個人事業主、フリーランスには当てはまりませんが、業務実態などから判断して「労働者」と認められた場合には労働関係法令が適用されるので留意しておきましょう。
(*)カルテル……同一業種の複数の企業が独占的利益を得ることを目的に、競争を避けて価格の維持・引き上げ、生産制限、販路制定などの協定を結ぶ連合形態。
(第7回に続く)
執筆・編集:イラストレーション編集部
企画・編集協力・イラストレーション:オオスキトモコ
監修:弁護士 大川宏(総合法律事務所あおぞら)
図版デザイン:尾崎行欧+宗藤朱音(尾崎行欧デザイン事務所)
*イラストレーターの仕事を主眼として、弁護士の監修、参考資料、これまでの事例などに基付き一般的と思われる法解釈によって構成していますが、本情報の運用結果については玄光社及び関係者共にいかなる責任も負いかねます。
*本特集は『イラストレーション』No.236掲載記事を再構成し、2024年7月2日にウェブ公開したものです。
【プロフィール】

オオスキトモコ
イラストレーター。2010年から『イラストレーションファイル』毎年掲載。仕事をする中でさまざまなトラブルに遭遇したことから、下請法や著作権法など法律の勉強を始める。2021年に国家資格「三級知的財産管理技能士」、2024年に「ビジネス著作権検定上級」合格。
大川宏(総合法律事務所あおぞら)
弁護士。得意分野は民事事件、イラストレーターの著作権関連など。『Q&Aでわかる!イラストレーターのビジネス知識』(玄光社)監修。教育機関で著作権の講義なども行っている。
【特集参考文献一覧】
ウェブサイト
● 公正取引委員会
● 公正取引委員会
「下請代金支払遅延等防止法ガイドブック コンテンツ取引と下請法」
● 公正取引委員会
● 特許庁
●厚生労働省 ※策定:内閣官房+公正取引委員会+中小企業庁+厚生労働省
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン【概要版】」
● 公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)
● 一般社団法人日本モデルエージェンシー協会(J.M.A.A)「出演と契約に関するガイドライン」
オンラインセミナー
●日本イラストレーション協会(JILLA)
講師:弁護士 桑野雄一郎(高樹町法律事務所)
書籍・雑誌
●『illustration』No.168特集「イラストレーターのためのお仕事マナーQ&A 文書確認編」
大川宏 監修協力(玄光社)
●『プロとして知りたいこと全部。イラストレーターの仕事がわかる本』
グラフィック社編集部+竹永絵里 編(グラフィック社)
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