著作権と契約のキホン
改めて知る・考える「著作権と契約のキホン」【第7回】著作権と契約にまつわるQ&A③ タッチなどの類似、トレースに対してはどう考えるといいですか?
なんとなくは知っていても、やはり難解なイメージが強い「著作権」や「契約」。本連載では、改めてその基本を知ることで、イラストレーター、そして発注者であるデザイナーやクライアントのよりよい関係性、仕事の進め方について考えます。
第5回からは、知っておいた方がよい事柄、また仕事をする中でイラストレーターの方々 が遭遇する可能性の高い具体的なトラブル、その対策などについて、Q&A形式でお答えします。
タッチなどの類似、トレースに対してはどう考えるといいですか?
基本的にタッチや作風、技法などはアイデアと見なされ、著作権の保護対象ではありません。また、これまでの判例を振り返っても、結果は裁判官の判断によって大きく左右されます。
構図などが酷似している場合には著作権侵害が認められる例もありますが、アイデアが普遍的であるほど認められづらくなります。過去の具体的な事例が気になる方は、書籍『エセ著作権事件簿』(友利昴 著/2022年パブリブより刊行)に多数掲載されているので参考にしてみてください。
最近はトレースを発端とした盗作も問題になっていますが、トレース行為自体に問題があるわけではなく、トレース元の著作権を侵害していることが問題の根源です。トレース元が自身で撮影した写真や著作権の保護期間を過ぎた図像などであれば、もちろん問題ありません。ただし、自身が撮影した写真でも人物モデルがいるような場合には肖像権が発生するため注意しましょう。
また、クライアントが手配した資料を参考に描いた結果、無意識に著作権を侵害してしまったということもありますので、資料の出典を確認することも重要です。ただし、ほかの人の写真や絵などの資料を参考に描く場合にも、「元資料とは別物」の「自分の絵」になっていれば大丈夫です。
特定のイラストレーターやアーティストの絵を模倣して描くよう依頼する発注者もいるようですが、不正競争防止法違反などに問われる可能性はもちろん、イラストレーターが著作権法違反に問われる可能性もあります。クライアントの強い意向を反映して描いたとしても、イラストレーターに批判が集中することは容易に想像出来、その場合には大きな損害が生じるでしょう。
難しいことではありますが、自身、そして他者の表現、著作権を侵害しないためにも、クライアントときちんと話し合い、時には断る決断も必要です。
(第8回に続く)
執筆・編集:イラストレーション編集部
企画・編集協力・イラストレーション:オオスキトモコ
監修:弁護士 大川宏(総合法律事務所あおぞら)
図版デザイン:尾崎行欧+宗藤朱音(尾崎行欧デザイン事務所)
*イラストレーターの仕事を主眼として、弁護士の監修、参考資料、これまでの事例などに基付き一般的と思われる法解釈によって構成していますが、本情報の運用結果については玄光社及び関係者共にいかなる責任も負いかねます。
*本特集は『イラストレーション』No.236掲載記事を再構成し、2024年7月9日にウェブ公開したものです。
【プロフィール】
オオスキトモコ
イラストレーター。2010年から『イラストレーションファイル』毎年掲載。仕事をする中でさまざまなトラブルに遭遇したことから、下請法や著作権法など法律の勉強を始める。2021年に国家資格「三級知的財産管理技能士」、2024年に「ビジネス著作権検定上級」合格。
大川宏(総合法律事務所あおぞら)
弁護士。得意分野は民事事件、イラストレーターの著作権関連など。『Q&Aでわかる!イラストレーターのビジネス知識』(玄光社)監修。教育機関で著作権の講義なども行っている。
【特集参考文献一覧】
ウェブサイト
● 公正取引委員会
● 公正取引委員会
「下請代金支払遅延等防止法ガイドブック コンテンツ取引と下請法」
● 公正取引委員会
● 特許庁
●厚生労働省 ※策定:内閣官房+公正取引委員会+中小企業庁+厚生労働省
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン【概要版】」
● 公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)
● 一般社団法人日本モデルエージェンシー協会(J.M.A.A)「出演と契約に関するガイドライン」
オンラインセミナー
●日本イラストレーション協会(JILLA)
講師:弁護士 桑野雄一郎(高樹町法律事務所)
書籍・雑誌
●『illustration』No.168特集「イラストレーターのためのお仕事マナーQ&A 文書確認編」
大川宏 監修協力(玄光社)
●『プロとして知りたいこと全部。イラストレーターの仕事がわかる本』
グラフィック社編集部+竹永絵里 編(グラフィック社)
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