著作権と契約のキホン
改めて知る・考える「著作権と契約のキホン」【第8回】著作権と契約にまつわるQ&A④ 納品後に仕事実績としての公表、成果物の公開を禁止された場合には?
なんとなくは知っていても、やはり難解なイメージが強い「著作権」や「契約」。本連載では、改めてその基本を知ることで、イラストレーター、そして発注者であるデザイナーやクライアントのよりよい関係性、仕事の進め方について考えます。
第5回からは、知っておいた方がよい事柄、また仕事をする中でイラストレーターの方々 が遭遇する可能性の高い具体的なトラブル、その対策などについて、Q&A形式でお答えします。
納品後に仕事実績としての公表、成果物の公開を禁止された場合には?
著作者人格権には「氏名表示権」が含まれており、これは「著作物を公表する時に、著作者名を付すかどうか、付す場合には名義をどうするか」を著作者自身が決められる権利です。そのため、自分が描いた作品の公表や原画の公開は、クライアントと何らかの特別な事前契約(特約)を結んでいない限り、問題ないと思われます。
ただし、クライアントとしては諸般の事情で公表、公開が難しい場合もあるでしょうし、イラストレーターとしても事前にそのことが告知され、ギャランティが上乗せになるなど何らかの対価があればいいと考える人もいるでしょう。また、成果物は共同著作物(*1)や結合著作物(*2)であったり、編集著作物(*3)であったりとさまざまで、著作権者が複数いるような場合にはクライアントが成果物の公開を禁止しても違法性がない場合もあります(確認を取らず公開した場合に、他者の著作権を侵害する可能性もあるので注意が必要です)。
ただし、特に明確で合理的な理由なく、事前説明のない公表、公開の禁止はクライアント側が独占禁止法に抵触するケースもあります。トラブルを未然に防ぐためにも、依頼を受ける段階で必ず確認しておきたい事柄です。
(*1)共同著作物……2人以上で共同創作したもので、各創作者の寄与を分離して利用出来ないもの。
(*2)結合著作物……2人以上で創作したものの、各創作者の寄与を分離して利用出来るもの。
(*3)編集著作物……個々の素材は著作物であったとしても、その選択や配列、収集の労力において、編集者にも著作権があるとされる。
(第9回に続く)
執筆・編集:イラストレーション編集部
企画・編集協力・イラストレーション:オオスキトモコ
監修:弁護士 大川宏(総合法律事務所あおぞら)
図版デザイン:尾崎行欧+宗藤朱音(尾崎行欧デザイン事務所)
*イラストレーターの仕事を主眼として、弁護士の監修、参考資料、これまでの事例などに基付き一般的と思われる法解釈によって構成していますが、本情報の運用結果については玄光社及び関係者共にいかなる責任も負いかねます。
*本特集は『イラストレーション』No.236掲載記事を再構成し、2024年7月9日にウェブ公開したものです。
【プロフィール】
オオスキトモコ
イラストレーター。2010年から『イラストレーションファイル』毎年掲載。仕事をする中でさまざまなトラブルに遭遇したことから、下請法や著作権法など法律の勉強を始める。2021年に国家資格「三級知的財産管理技能士」、2024年に「ビジネス著作権検定上級」合格。
大川宏(総合法律事務所あおぞら)
弁護士。得意分野は民事事件、イラストレーターの著作権関連など。『Q&Aでわかる!イラストレーターのビジネス知識』(玄光社)監修。教育機関で著作権の講義なども行っている。
【特集参考文献一覧】
ウェブサイト
● 公正取引委員会
● 公正取引委員会
「下請代金支払遅延等防止法ガイドブック コンテンツ取引と下請法」
● 公正取引委員会
● 特許庁
●厚生労働省 ※策定:内閣官房+公正取引委員会+中小企業庁+厚生労働省
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン【概要版】」
● 公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)
● 一般社団法人日本モデルエージェンシー協会(J.M.A.A)「出演と契約に関するガイドライン」
オンラインセミナー
●日本イラストレーション協会(JILLA)
講師:弁護士 桑野雄一郎(高樹町法律事務所)
書籍・雑誌
●『illustration』No.168特集「イラストレーターのためのお仕事マナーQ&A 文書確認編」
大川宏 監修協力(玄光社)
●『プロとして知りたいこと全部。イラストレーターの仕事がわかる本』
グラフィック社編集部+竹永絵里 編(グラフィック社)
share